アブラムシの天敵剤
「アフィデント」について

根本 久

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.88/A (1998.7.1) -

 


 


 

アフィデントはショクガタマバエAphidoletes aphidimyza(Rondani)に付けられた、オランダ・コパート社の商品名である。アフィデントは、500mlのポリエチレンボトルにまゆがキャリアーのバーミキュライトと共に500頭以上入っている。本天敵資材は、施設栽培の果菜類や花きに発生するアブラムシの対策に、天敵資材であるアフィパール(アブラバチ)と共に使われることが多い。

ショクガタマバエのまゆが入ったアフィデントのボトル

1.形態および生活環

ショクガタマバエの成虫は、約2.5mmのハエで、やや大きめのカといった感じである。成虫は夜間活動し、アブラムシのコロニーを探し求め、その近辺に産卵する。成虫はより大きなアブラムシのコロニーに好んで産卵する。卵は、0.1~0.3mmの楕円形で、色は光沢のある黄土色である。幼虫は紡錘形で、捕食したアブラムシにより赤、橙、黄色、灰色など種々の色を呈する。大きさは、孵化幼虫の0.3mmから終齡幼虫の2.5mmまである。幼虫はアブラムシの関節部をかじって動きを封じ、それと同時に、アブラムシを麻痺させる唾液が注入される。こうして、動けなくなったアブラムシを吸汁する。幼虫期間中に50匹以上のアブラムシを捕食する。終齡幼虫は地中に潜り、2mm程のまゆを作ってその中で蛹となる。マルチフィルムなど蛹化時に土に潜れない環境下では、死亡率が高まる。卵から成虫までの期間は約3週間で、最適条件下では200個以上の卵を産卵する。

 ▲ ショクガタマバエ成虫  ▲ ショクガタマバエ幼虫とワタアブラムシ

 

2.使用法

本種は、日本にも生息する天敵昆虫であるが、施設栽培条件下では自然に発生するショクガタマバエのみによるアブラムシの制御は難しい。そのため、購入した資材を使うのが賢明である。使用にあたっては、温度湿度などの物理環境および病害虫対策に使われる化学農薬の影響を考慮する事が重要である。

(1)到着したアフィデントの処置

購入したアフィデントのボトルは、太陽光が直接当たる所においてはならない。到着したアフィデントは涼しい日陰に置き、なるべく早めに使用する。摂氏8度での保存は7日間可能であるが、オランダからの輸送に数日間経過しているので、使用現場での保存期間は短いと考えた方が無難である。また、冷蔵庫等の低温状態に保存されると、羽化した成虫の産卵能力がなくなるので注意する。

(2)処理条件

ショクガタマバエは、60種以上のアブラムシを捕食する。ショクガタマバエは低密コロニーの探索効率が良くないので、アブラバチとの併用が望ましい。施設栽培条件下の果菜類や花き類で使用されるが、アフィパール(アブラバチ)と共に使用した時に最も効果が高い。

 ▲ アフィパールのボトル処理(アフィデントはアフィパールと共に使うと効果が高い)  ▲ キュウリ葉裏のワタアブラムシ

 ▲ キュウリ下葉への処理状況

処理する時間帯は、曇天の場合を除き、夕方以降の日が落ちた頃に行なう。処理位置は、下位葉の上や土の上など直接太陽の光が当たらないところが望ましい。乾燥状態では、羽化率や産卵数が激減するので、湿ったピートモスの入った容器内に設置するなどの工夫も必要である。

摂氏21度の条件下では産卵期間2~3日、幼虫期間7~14日、蛹期間約14日である。最適温湿度は摂氏22度、85%である。したがって、処理時期は温度が確保しやすい春から秋にかけてが適当と思われる。

薬剤名 幼虫 影響期間
(週)
殺虫・殺ダニ剤名  
イミダクロプリド粒 0
ケルセン乳 0
酸化フェンブタスズ水 -
シベルメトリン乳 × × 12
除虫菊乳 × 2
ダイアジノン剤 × × 8
ピリダベンフロアブル -
ピリミカーブ水 × 1
フェンプロパトリン乳 × × 12
ブプロフェジン水 1
ペルメトリン乳 × × 12
ホサロン乳 -
マラソン乳 2
BRP乳 8
CVP乳 × × 12
殺菌剤名  
イプロジオン水・煙 0
キノキサリン系水 -
ジネブ水 -
スルフェン酸系水 -
銅剤 -
トリフルミゾール水・煙 0
トリホリン乳 -
プロシミドン水・煙 -
ベノミル水 0
マンネブ -
TPNフロアブル 0

第1表 キュウリ使用薬剤のショクガタマバエへの影響
(バイオロジカルコントロール、1997を元に作成)
(注)
  1. 乳:乳剤、水:水和剤、煙:くん煙剤
  2. 薬剤の影響(◎:影響少ない、○:やや影響あり、△:影響あり、×:強い影響あり)
  3. 各薬剤の使用前にあたっては容器に表示されている注意条項を守る。
  4. 不明な場合は各農薬製造メーカー等に問い合わせてみる。

(3)薬剤の影響

アフィデントは、日本では登録上農薬に位置付けされるが、アブラムシ類を捕食する天敵資材(ハエ類)で、化学農薬とは使用法が全く異なるので注意が必要である。アフィデント使用時には処理した農薬の影響を受けやすいので、悪影響のない薬剤と方法を選ぶ必要がある。

薬剤を使用する場合は、ショクガタマバエへの薬剤の影響の程度や期間を考慮に入れて使用する(第1表)。一般に、合成ピレスロイド剤や有機リン剤は長期間チリカブリダニに悪影響を与える。

(4)その他の注意事項

ハダニやアザミウマなど薬剤の使用が不可欠な害虫の発生が無いよう、育苗期や定植前後に薬剤防除を徹底するなど、あらかじめ予防処置をとることも大事である。この場合も、ショクガタマバエへの悪影響が少ない薬剤の中から選定したり、処理薬剤への安全日数を考慮してショクガタマバエを再放飼することも必要である。また、苗を定植するハウス周辺に病害虫が発生した植物を配置しないよう注意することも必要である。

 

3.安全性

本種は、ユーラシアおよび南米に分布する、タマバエ科の捕食者である。非生息地への導入による生態系への悪影響の事例の報告はない。

また、哺乳動物への急性および慢性毒性、目や皮膚への刺激性や過敏症は認められていない。また、製造工程や園芸労働者へのアレルギーおよび健康被害も認められていない。

(埼玉県園芸試験場)