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オンシツツヤコバチとその近縁種の幼虫は雌雄ともコナジラミを食べて成育すると思われているかも知れないが、実はそうではなく、多くの種が雌雄で幼虫の食物を異にする。とはいっても、オンシツツヤコバチの属するEncarsia属の寄生蜂は卵のときからコナジラミの体のなかに閉じこめられており、幼虫といえども食物を自由に探索したり、選択したりすることは不可能であり、雌雄の食物を決定するのはその卵を産む雌である。これはまさに寄生蜂の寄主選択であり、寄生蜂の研究で最も重要な分野の一つになっている。今回とりあげる幼虫の食物については、後述するようにいくつかの疑問が残されているが、寄生を食物と読みかえても差し支えないであろう。
1.オンシツツヤコバチの寄生外国からの導入種であるオンシツツヤコバチの寄生の種類は予想以上に少なく、世界でこれまで約10種報告されているに過ぎない。そのなかにオンシツコナジラミ、シルバーリーフコナジラミおよびタバココナジラミが含まれているのはもちろんであるが、ミカンコナジラミDialeurodes citriの存在が注目される。それはもしオンシツツヤコバチがわが国のカンキツ類、カキ、クチナシなどに多発するミカンコナジラミに容易に寄生するとしたら、市販されたオンシツツヤコバチが簡単に野外に定着する恐れがあるからだ。しかし、これまでのところミカンコナジラミに対する寄生はわが国では報告されていない。室内実験では、ミカンコナジラミ幼虫に産卵しないばかりでなく、幼虫に接触しても反応を示さないことも少なくない。これとは逆に、これまで未記録のコナジラミが寄生されることも明らかになってきた。わが国のツツジに発生するツツジコナジラミPealius aqaleaeとツツジコナジラミモドキOdontaleyrodes rhododendriがそれである。これらのコナジラミに対してオンシツツヤコバチは産卵行動を示すばかりでなく、産下された卵は生育し、羽化幼虫は健全で、オンシツコナジラミにうまく寄生することが確認されている。このように、オンシツコナジラミやシルバーリーフコナジラミの属するTrialeurodes属やBemisia属とは異なる属の寄生であるにもかかわらず、寄生が認められたことから、Trialeurodes属のイチゴコナジラミやBemisia属の数種の在来のコナジラミに対する寄生の可能性は無視できない。モニタリングを継続する必要がある。
2.Gerlingの一石産雌単為生殖を行なう種といわれるオンシツツヤコバチに雄が発生することは古くから知られていた(Speyer,1927)が、その寄生は最近まで明確ではなかった。これは雌に比べてあまりにも雄の発生が少なく、雄を観察する機会がなかったためかも知れない。雄の寄生を実験により証明しようとしたのはイスラエルの昆虫学者Gerling(1966)が最初である。彼は実験結果にもとづき、雄はすでにコナジラミの体内に寄生している雌に寄生して成育すると述べている。つまり、雄は雌のような一次寄生者でなく、高次寄生者だ。これは後述する近縁種の雄の寄生から考えると納得し易く、発表当時は多くの研究者に受けいれられ、引用された。ところが、オンシツツヤコバチを長い間研究しているオランダのVet and van Lenteren(1981)が雄は雌と同じようにコナジラミの一次寄生者といい出し、高次寄生説が疑わしくなった。確かに雄は一次寄生者であり、ある種の抗生物質を成虫の食物に投与したり、高温条件で飼育することにより今日では容易に確認することができる(Kajita、1993)。
3.多様な雄の寄生オンシツツヤコバチとその近縁種の雌はつねにコナジラミを寄主として成育する一次寄生者であるが、雄は種によって必ずしもそうではない。Walter(1988)はこれを変則的な寄生(heteronomous parasitism)と呼び、寄生様式や寄生の種類の違いから、5つのタイプに分類している。
4.変則的な寄生を行なう在来種オンシツツヤコバチの仲間の在来種はこれまで知られている限りではすべて半数倍数性の寄生蜂であり、未交尾雌や交尾雌の産下する未受精卵は雄に成育し、交尾雌の産下する受精卵は雌に成育する。在来種のEncarsia JaponicaやEncarsia transvenaでは受精卵はコナジラミ体内に産みこまれるが、未受精卵は同種または他種の寄生蜂の幼虫または蛹の体の上に産みつけられる。前述の雄の寄生の分類に従えば、これは(4)のタイプであり、自種寄生と他種寄生を行なうことができる点で興味深い。野外に生息するオンシツツヤコバチやAmitus属の一種が極めて高い率でEncarsia transvenaの雄の寄生を受け、局地的に絶滅やそれに近い状態にあるがときどき観察されることから、このタイプの寄生蜂は寄主のある程度まで少ないところで自種寄生のメリットを発揮するが、近縁種の生息するところでは他種寄生により資源としての寄主をめぐり競争相手の雌を殺しているのではないかと思われる。もしこれが正しいとすれば、オンシツツヤコバチが在来種のコナジラミに定着しても在来種の寄生蜂の生息するところでは生き残ることが難しい状況におかれるかもしれない。 Encarsia luteaは上述の2種と違い、(2)のタイプの寄生蜂である。アメリカの昆虫学者Stoner and Butler(1965)によると、E.luteaの寄主はキンウワバやタバコガのような鱗翅目の卵だ。しかし、成育した雄が分類学者により同定されていないことなどで、この寄主は疑問視されている(Polasjek,1991)。 以上のように、今回は幼虫の食物としての寄主について述べてきたが、今後明確にしていかなければならないことが多い。どんな食物かということからどの程度それが好まれるかということの情報の変化もその一つであろう。 (山口大学農学部)
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