高知県におけるオクラの主要害虫の生態と防除

広瀬 拓也

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.85/B (1997.10.1) -

はじめに

 オクラは高知県の特産野菜の一つで、宿毛市、須崎市、南国市、土佐山田町などを中心に、施設、露地合わせて135haで栽培されている(1995年(平7))。栽培の中心は露地オクラで、栽培面積は114 haにのぼり、本県の夏場の重要な作物の一つとなっている。早期に出荷するほど高価格で取り引きされるため、2月下旬から3月にかけてトンネル内に播種する作型が多い。オクラにはハスモンヨトウ、アブラムシ類などの害虫が発生する。しかし、オクラはマイナー作物であるため、適用登録のある薬剤は極めて少ない。ここでは、本県での栽培が多い露地オクラを中心に、主要害虫の生態とその防除について述べる。


▲ハスモンヨトウ卵塊


第1図 高知県南国市におけるハスモンヨトウ卵魂数の消長(サトイモ、1995)

ハスモンヨトウ

 本種は広食性の害虫で寄主範囲が極めて広く、高知県ではオクラに限らず最も重要な害虫の一つとなっている。南方系の害虫で休眠しないため、施設が主要な越冬場所と考えられている。露地では通常6月下旬頃から幼虫の加害が見られ始めるが、8月~10月上旬にかけての発生量が最も多い。卵は卵魂として産み付けられ、1~2齢幼虫は集団で葉を食害する。発育するにつれ次第に分散し、蕾や朔果も加害するようになる。老齢幼虫は、昼間、株元などに潜み、夜間に食害することが多い。
 現在、オクラのハスモンヨトウに適用登録されている薬剤は、クロルフルアズロン乳剤のみである。ハスモンヨトウは有機リン剤など多くの薬剤に対して抵抗性を発達させているが、今のところ本剤は安定した効果を示す。ただし、本剤は幼虫脱皮時に死亡させる作用を持つ薬剤であるため、食害量の多い老齢幼虫に対して使用しても、実害を抑えることができない。このため、発生初期の防除に務める。また、アブラムシ類に適用登録のあるオルトラン水和剤も、若齢幼虫に対してはある程度の効果が期待できることから、アブラムシ類との同時防除剤として使用できる。しかし、抵抗性発達のため、3齢以降の幼虫に対しては効果が期待できない。


▲フタトリガリコヤガ幼虫(高井原図)


▲オオタバコガ幼虫


第2図 フタトガリコヤガ幼虫の発生消長(山下ら、1984)

フタトガリコヤガ

 本種はオクラのほかフヨウなどに寄生する。幼虫の発生は6~7月と9~10月に見られる。若齢幼虫は淡緑色であるが、中齢幼虫は黒紋と3本の黄色の線を持つ。幼虫の体には長い毛が疎らにあり、成長すると体長が40mmに達する。幼虫は主として葉を食害するが、朔果を加害することもある。発生量の年次間差が大きいが、高温、多照の年に発生が多いようである。老熟した幼虫は土中で蛹となる。土中で前蛹の形で越冬するとされる。
 現在、本種に適用登録された薬剤はない。ただし、薬剤には比較的弱いようなので、ハスモンヨトウに適用登録のあるクロルフルアズロン乳剤、アブラムシ類に適用登録のあるオルトラン水和剤を用いての同時防除が可能と考えられる。老齢幼虫は食害量が多いので、早めに防除を行なう。

オオダバコガ 

 以前は被害がほとんど問題とならなかった害虫であるが、1994年以降発生が増加した。寄生範囲が広く、オクラのほかトマト、ピーマン、キクなどを加害する。露地オクラでの発生は7~9月に多い。幼虫の体色には個体変異があり、淡緑色、淡黄褐色、茶褐色のものが見られる。体表に疎らに比較的長い毛を持つが、フタトガリコヤガの毛に比べると短い。幼虫はふ化後間もなくしぼんだ花や朔果に食入した場合は果実内部を食害する。果実を直接加害するので、被害が大きい。老熟すると土中で蛹となる。
 現在、本種に適用登録された薬剤はない。また、本種は薬剤感受性が低いうえ、しぼんだ花や朔果の内部に食入するため、薬剤がかかりにくく、防除が難しい。ハスモンヨトウに適用登録のあるクロルフルアズロン乳剤は、本種に対する殺虫活性が高い(小野本ら、1996)ことから、食入前の幼虫対象に、ハスモンヨトウとの同時防除を心がける。


▲ワタノメイガ(左)と幼虫(右)


第3図 ワタノメイガによる巻葉の発生消長(山下ら、1984)

ワタノメイガ

 幼虫の発生は6~10月初めにかけてみられる。通常8~9月の発生が多いようである。1齢幼虫は淡黄色で、葉裏の葉脈近くに糸を張り、その中で葉を加害する。成長すると淡緑色となり、葉を筒状に巻いてその中から加害する。発育が進むと新しい巻葉を作り、食害する。老熱すると赤褐色となり、巻葉の中で蛹化する。幼虫で越冬するとされる。

 本種に対しても適用登録された薬剤はない。ただし、フタトガリコヤガ同様、薬剤には比較的弱いようなので、ハスモンヨトウに適用登録のあるクロフルアズロンに適用登録のあるクロルフルアズロン乳剤、アブラムシ類に適用登録のあるオルトラン水和剤を用いての同時防除が可能と考えられる。

アブラムシ類

 ワタアブラムシとモモアカアブラムシの発生が見られるが、優占種はワタアブラムシである。まれに、ハスクビレアブラムシが発生することもある。ワタアブラムシの発生は6~10月に多い。主として葉裏に寄生するが、発生が多いと蕾や幼果にも寄生する。高密度になると、排泄物である甘露にすす病が発生し、葉や朔果の表面が黒くなる。また、生長点付近に寄生が多いと、葉の奇形や生育抑制が起こる。特に、生育初期に寄生が多いと生育が著しく抑制される。生育初期の被害許容水準は約1,500頭/株(山下ら、1983)とされる。
 アブラムシ類に対しては、イミダクロプリド水和剤、オルトラン水和剤が適用登録されている。このうち、オルトラン水和剤はワタアブラムシに対し効果の劣ることがある。しかし、本剤はフタトガリコヤガなどに対する防除効果が期待できるので、これらの害虫との同時防除を図る場合に使用する。なお、露地では、テントウムシ、寄生蜂などの天敵類が、アブラムシ類の密度抑制に役立っている。このため、殺虫剤のむやみな使用はできるだけ避ける。また、シルバーポリフィルムによるマルチングやシルバーテープの処理は、有翅虫の飛び込み防止に有効とされる。


第4図 高知県南国市におけるアブラムシ類無翅虫の発生消長(山下ら、1983一部改変)


▲ワタアブラムシ:葉(上)と蕾(下)

カメムシ類

 通常、ミナミアオカメムシ、ブチヒゲカメムシの発生が見られるが、発生量の多いのはミナミアオカメムシである。ミナミアオカメムシはイネで繁殖するため、イネの収穫後飛来することが多い。ブチヒゲカメムシはキク科、マメ科植物で繁殖した個体が圃場に飛来する。露地オクラでは8月中旬~10月中旬頃の発生が多い。両種とも朔果や蕾を成・幼虫が加害する。
 オクラではカメムシ類に有効な薬剤の適用登録がない。このため、周辺の水田や雑草地での防除を徹底し、圃場への飛来を少なくする。少発生であれば実害はほとんどない。

サツマイモネコブセンチュウ

 オクラは本種による被害が最も大きい作物の一つである。寄生が多いと根全体に根瘤が発生し、ひどい場合は腐敗する。本種は高温条件下での増殖が盛んで、露地では5~9月に密度が高まる。一般に、土砂~砂壌土での増殖が旺盛で、粘質土壌での増殖は少ないとされる。
 オクラではセンチュウ類に適用登録のある薬剤がない。このため、連作を極力避ける、水稲跡地など本種の発生していない圃場で栽培を行なうなどの方法を採るしか対策がないのが現状である。なお、施設では夏期に湛水蒸し込み処理を行なえば効果がある。