コナガの防除
―ゼンターリ顆粒水和剤を使用して―
―ゼンターリ顆粒水和剤を使用して―
豊嶋 悟郎
- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.84/G (1997.7.1) -
1.はじめに
長野県のアブラナ科野菜の生産は、キャベツが栽培面積で1,996ha、出荷量出91,697t(いずれも1995年(平7)実績)になる。これらのアブラナ科作物栽培のうえで、最も重要な害虫がコナガであることは誰もが認めるところである。また、重要な害虫であるがために薬剤による防除も頻繁に行なわれ、各種殺虫剤に対する抵抗性がかなり発達しており、殺虫剤のローテーション散布にも支障を貴多しているのが現状である。
以下、長野県におけるコナガの発生状況とゼンターリ顆粒水和剤のコナガに対する防除効果について述べたい。
2.県内のコナガ発生状況
長野県は中部山岳地帯に位置し、耕地の標高も300m台から千数百mまで広がり、気象条件も地域によってかなり異なる。したがって、コナガの発生状況も地域によってかなり異なる(第1図、2図)。多くの地域では、8月以前と8月以降に2つの山がみられる2山型の発生になるが、標高の高い地域では1山型の発生パターンを示す地域もある。
ここ数年の発生状況を見ると、1993年(平5)は低温、多雨の影響で発生量は非常に少なく、1994、1995年は逆に高温、少雨の影響を受けてコナガが多発生し、農作物に大きな影響を及ぼした。1996年は比較的発生が少なく、大きな被害に結びつくことはほとんどなかった。
第1図 フェロモントラップによるコナガ発生消長(病害虫防除所調べ)
第2図 フェロモントラップによるコナガ発生消長(野花試調べ)
3.センターリ顆粒水和剤の効果
1996年に野菜花き試験場(試験1)と営農技術センター(試験2)でキャベツのコナガに対するゼンターリ顆粒水和剤の効果を検討したので、ここではその結果について紹介する。
- 試験1
- 試験は野菜花き試験場内の圃場において実施した。供試品種葉YRSEで、試験規模は1区10平方メートルの3反復で行なった。散布日は10月2日で、ゼンターリ顆粒水和剤の1,000倍液に展着剤(アイヤー20の5,000倍)を加用した。対照薬剤としては、BT剤A(kurstaki死菌剤)の2,000倍液に同じく展着剤を加用したものを用いた。散布量は10a当り300リットルとした。調査としては処理前、2日後および7日後の3回、各区10株に寄生する幼虫、蛹個体数の計数を実施した。薬害については処理後随時肉眼観察で行なった。
結果を第1表に示した。ゼンターリ顆粒水和剤、対照薬剤ともに散布7日後には幼虫、蛹合計の補正密度指数が10以下の値を示しており、いずれの薬剤も高い防除効果を示した。
対照薬剤との効果差もほとんどなく、同等の効果が認められた。薬害は認められなかった。 - 試験2
- 試験は営農技術センター内の圃場において実施した。供試品種はYCRSEで、試験規模は1区10平方メートルの2反復で行なった。散布日は9月24日で、ゼンターリ顆粒水和剤の1,000倍液に展着剤(Sーハッテンの10,000倍)を加用した。対照薬剤としては、BT剤B(kurstaki死菌剤)の1,000倍液に同じく展着剤を加用したものを用いた。散布量は10a当り200リットルとした。調査としては処理前、3日後、8日後および13日後の4回、各区10株に寄生する幼虫、蛹個体数の計数を実施した。薬害については処理後随時肉眼観察で行なった。
- 結果を第2表に示した。ゼンターリ顆粒水和剤は、対照薬剤と比較した場合、効果の発言がやや早く、残効もややまさる傾向が認められた。薬害は認められなかった。
- いずれの試験においてもゼンターリ顆粒水和剤は、慣行のBT剤と比較して同等からややまさる防除効果が認められた。
- 全国的にみるとBT剤(クルスタキー)に対する抵抗性を獲得したコナガが確認されてきている。長野県においては現在のところそういった事例は確認されていない。しかし、合成ピレスロイド剤やIGR剤をはじめとする薬剤に対する抵抗性を獲得しているため、防除薬剤の主流がBT剤に偏っている傾向がある。この状況を続けていれば、いずれ近いうちに長野県内でもBT剤に対する抵抗性を獲得することになろう。
- 結果を第2表に示した。ゼンターリ顆粒水和剤は、対照薬剤と比較した場合、効果の発言がやや早く、残効もややまさる傾向が認められた。薬害は認められなかった。
供試薬剤 | 希釈倍数 | 処理前 | 2日後 | 3日後 | 薬害 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
幼虫 | 蛹 | 合計 | 幼虫 | 蛹 | 合計 | 幼虫 | 蛹 | 合計 | |||
ゼンターリ顆粒水和剤 | 1000倍 | 12.7 | 0.0 | 12.7 | 1.7 | 0.0 | 1.7 (10.6) |
2.0 | 0.0 | 2.0 (9.8) |
- |
BT剤 A (kurstaki死菌剤) |
2000倍 | 13.3 | 0.0 | 13.3 | 2.0 | 0.3 | 2.3 (13.7) |
1.7 | 0.3 | 2.0 (9.3) |
- |
無処理 | - | 14.0 | 0.7 | 14.7 | 17.3 | 1.3 | 18.6 (100) |
22.7 | 1.0 | 23.7 (100) |
供試薬剤 | 希釈倍数 | 処理前 | 2日後 | 3日後 | 13日後 | 薬害 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
幼虫 | 蛹 | 合計 | 幼虫 | 蛹 | 合計 | 幼虫 | 蛹 | 合計 | 幼虫 | 蛹 | 合計 | |||
ゼンターリ 顆粒水和剤 |
1000倍 | 1.8 | 0.3 | 2.1 | 0.3 | 0.0 | 0.3 (14.3) |
0.3 | 0.0 | 0.3 (11.8) |
0.2 | 0.0 | 0.2 (8.9) |
- |
BT剤 B (kurstaki死菌剤) |
1000倍 | 0.8 | 0.2 | 1.0 | 0.4 | 0.0 | 0.4 (40.0) |
0.1 | 0.0 | 0.1 (8.2) |
0.2 | 0.0 | 0.2 (18.7) |
- |
無処理 | - | 1.3 | 0.1 | 1.4 | 1.0 | 0.4 | 1.4 (100) |
1.5 | 0.2 | 1.7 (100) |
0.8 | 0.7 | 1.5 (100) |
4.交信撹乱剤の利用
ここ数年、長野県のアブラナ科作物栽培地帯では交信撹乱剤の導入がすすめられている。導入した地域では、コナガに対する薬剤防除の回数が減少しつつある。しかし、一部では誤解も生じて効果的な防除につながっていない場合もある。その誤解の一つは、交信撹乱剤を殺虫剤と同じものだと思いこみ、設置しても成虫が飛び交っているから効果がないと判断してしまうケースである。もう一つは、1994、1995年のような高温干ばつでコナガが第発生した場合など、交信撹乱剤の能力を超えてしまってもまだ交信撹乱剤に頼ってしまっているケースである。それとこれは誤解とは少し異なるのだが、交信撹乱剤を設置しても以前とまったく同じパターンで薬剤散布を続けているケースである。いずれのケースも現場の技術者の方々の指導により除々に減ってきている。交信撹乱剤は、多発したコナガを防除するためのものではなく、通常発生時の密度を低く抑え、そのことによって薬剤の散布回数を抑え、薬剤抵抗性の獲得を遅らせ、いざというときに殺虫剤を使えるようにするものだということをよく確認する必要がある。
▲交信撹乱剤を処理した圃場 | ▲フェロモントラップ |
5.おわりに
昨シーズンから、新規薬剤系統でコナガに登録のとれたものが発売され、BT剤もクルスタキー系統、アイザワイ系統それぞれ様々なものが出ている。また、粒剤の施用についても、育苗期後半に施用する方法を採用した薬剤が除々に増えてきている。
前述の交信撹乱剤を併用し、定植後3~4週間程度の防除は育苗期後半あるいは定植時の粒剤で行ない、その後の防除は圃場のコナガの発生量を確認しながら各系統の薬剤をローテーションして散布するという基本に忠実な防除が薬剤の寿命を延ばす唯一の方法と考えられる。
(長野県野菜花き試験場)