天敵のいろいろ

村井 保

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.83/F (1997.4.1) -

1.実用化された天敵

 近年、害虫防除資材として、天敵の利用が注目されている。天敵の利用は古くから行われており、これまでに、カンキツ類のカイガラムシやクリのクリタマバチなど侵入害虫に対して、全産地で探索した天敵をわが国に導入し、定着しているものも多い。ここでは、そのような天敵と異なり、大量に増殖して、農薬のようにまき、定着を期待しない天敵を中心に取り上げたいと思う。
 1995年3月にはトマトでのオンシツコナジラミに対してオンシツツヤコバチが、イチゴのハダニに対してチリカブリダニが生物農薬として農薬登録された。1995年現在で8種の天敵昆虫あるいは天敵ダニが登録のために全国の農業試験場で効果が検討されている。これらを含めて、今後有望と思われる天敵を紹介するとともに利用方法についても少しふれたいと思う。しかし、現在研究されている天敵の種類は多く、ここに取り上げた天敵はその一部にすぎない。今後海外の天敵だけでなく、国産の天敵もメニューが揃ってくるものと思われる。

ナミヒメハナカメムシの卵と
アザミウマを捕食中の幼虫
 
アザミウマ幼虫に産卵中の
アザミウマヒメコバチ
 

コレマンアブラバチ成虫

 
アブラムシ捕食性天敵の
ヒメテントウムシ
 

2.活躍が期待される天敵のいろいろ

 微小害虫は発育が早く、抵抗性の発達も早い。現在施設栽培作物を中心に難防除といわれる害虫はこの微小害虫である。今後、これら害虫に対して天敵の登場が期待されている。

(1)コナジラミの天敵

 オンシツツヤイコバチはオンシツコナジラミの幼虫に寄生し、トマトのコナジラミに対して登録がある。現在、シルバーリーフコナジラミや他の作物でも効果が検討されている。

(2)ハダニ類の天敵

 ハダニの天敵としてはハダニを食べるカブリダニ類がよく知られ、そのうちチリカブリダニは海外から輸入され、わが国でも増殖方法等が研究された。現在、イチゴのハダニに対して登録があり、他の作物での効果が検討されている。また、在来のケナガカブリダニやハダニアザミウマなども有望であり、今後の検討が望まれる。

(3)アザミウマ類の天敵

 ハナカメムシ類はアザミウマやハダニ、アブラムシなどを食べる天敵で、海外ではピーマンやキュウリなどの施設栽培作物のアザミウマに対して広く使用されている。日本でも在来のナミヒメハナカメムシがナスでのミナミキイロアザミウマ抑制効果が大きいことが明らかにされており、有望な天敵と考えられている。このハナカメムシはオランダの増殖方法では効率が悪く、効率的な増殖方法の検討が必要とされている。岡山農試ではコナダニを餌とした増殖技術を開発したが、農水省農業技術環境研究所や島根農試でもスジコナマダラメイガを餌とした独自の増殖技術を開発している(写真1)。
 ククメリスカブリダニはアザミウマ類を食べるカブリダニで、ナスのミナミキイロアザミウマに対して利用方法が検討されている。
 アザミウマ類の寄生蜂としてアザミウマヒメコバチが知られ、島根農試で開発したアザミウマ類の大量増殖技術で大量増殖が可能となった(写真2)。今後、利用方法の検討が必要であると思われる。

(4)アブラムシ類の天敵

 アブラムシの寄生蜂としては、コレマンアブラハチ(写真3)が海外から輸入されワタアブラムシとモモアカアブラムシどちらにも有効で、各種作物で効果が検討されている。在来のアブラバチ類も種類は多く、圃場ではこれらに寄生されたミイラ(マミーという)がよく見かけられる。寄生するアブラムシの種類は少なく、すべてのアブラムシに寄生するアブラバチは日本にはいない。しかし、別のグループであるアブラバチの仲間ではモモアカアブラムシにもワタアブラムシにも寄生性がある種もいることが近年わかり、今後、国産の天敵としてその増殖利用方法の開発が望まれる。
 テントウムシ類はアブラムシ類の天敵としてよく知られ、凍結乾燥した雄蜂児粉末を餌とする飼育法やアブラナ科野菜の害虫であるコナガの人工飼育を開発し、そのコナガを餌として増殖する方法も確立されているが、すべてのテントウムシに適用できないこと、共食いがあること、採卵が困難など、大量増殖技術に難点があるほか、移動力が大きいことや休眠性などの利用上にも問題があり、実用化には解決しなければならない問題が多いようである(写真4)。
 ヒメクサカゲロウやショクガタマバエもアブラムシ類をたべる天敵としてよく知られ、海外で大量増殖技術が開発され、わが国では、イチゴのアブラムシなどに対して実用化の試験が行われている。
 ヒラタアブもアブラムシ防除効果が高いが、残念ながら大量増殖技術が確立していない。今後の開発が期待される。

(5)ハモグリバエの天敵

 ハモグリバエの幼虫に寄生する寄生蜂2種ハモグリバエコマユバチとイサエアヒメコバチが海外から輸入され、実用化の敷けnが行われている。これら天敵を放飼したハウスでは在来天敵の新種も見つかっており、これらの利用方法の開発も望まれるところである。

(6)その他害虫の天敵

 タマゴバチ類はチョウ目に属する昆虫の卵に寄生する体長1mmにも満たない寄生蜂(写真5)で、海外ではトウモロコシのアワノメイガなどに対して使用されている。国内でも蜂は多く、コナガやヨトウガなどの卵からこの寄生蜂が得られている。スジコナマダラメイガという貯殻害虫を代換えの餌として増殖するシステムが確立されており(第1図)、現在、スイートコーンやキャベツなどで実用化の試験が行われている。

第1図 スジコナマダラメイガと卵寄生蜂類の大量増殖手順
 

代換え餌に産卵中の
アワノメイガタマゴバチ
バンカープラントの設置状況 
 

バンカープラントとしての
ムギの準備
 
天敵の餌となる
ムギクビレアブラムシが
寄生したムギ
 

3.天敵の有効な利用方法

 天敵の利用方法は画一的なものではなく、有効な防除効果を引き出すためには、それぞれの天敵独自の特徴があり、利用方法も異なる。もっとも経済的な放飼方法を明らかにしていく必要があり、そのためには害虫のモニタリングを如何に行なうか、また、どれくらいの害虫の発生で天敵を放飼するのか、薬剤との併用の可能性といった問題を解決しなければならない。
 害虫と天敵を同時に放飼する方法も有効であることが知られているが、それを栽培者に理解してもらうための、普及上の問題点も多いと思われる。その一解決策として、栽培している作物に寄生しない昆虫を代換えの餌として、施設等に天敵とともに持ち込み、対象の害虫の発生以前から天敵を維持する方法(バンカープラント法)も検討されている(写真6、7、8)。
 天敵を利用して効率的な防除効果を得るためには、栽培者の害虫や天敵を見る目を養うことがさらに重要となるだろう。

(岡山大学資源生物科学研究所)