オンシツツヤコバチの寄生特性と

マルハナバチ適用トマト栽培における害虫防除

- ホストフィーディングと海津町のトマト部会のアンケートのまとめから -

田口 義宏

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.82/D (1997.1.1) -

 

 海津町は岐阜県南西部の濃尾平野に位置し、温暖な気象条件下で77戸の農家が抑制+半促成あるいは促成作型による冬春トマトの栽培(品種はハウス桃太郎)に取り組んでいる。栽培面積は23ha、年間販売額は約11億円である。
 海津町トマト部会では「安全・安心かいづのトマト」を目標に、1990年(平成2年)からマルハナバチを使用した自然交配によるトマト品質の向上を図り、1992年からはエンストリップ(オンシツツヤコバチ)によるコナジラミ防除を農業総合研究センター、専門技術員、農業改良普及センター、農協等関係機関と協力し実用化試験を進めてきた。

1.作型とオンシツツヤコバチ導入時期

 コナジラミ類の発生は春~初夏にかけてオンシツコナジラミが、夏から秋にかけてタバココナジラミが主体となっている。試験は2戸の異なる作型の栽培農家で行ない、促成作型では9月~11月までと3月~6月まで、半促成作型では4月~6月まで行なった。ここでは春期低温となった1996年の防除効果の特徴を中心に述べることにする。

 1996年のオンシツコナジラミの初発生は平年より2週間程遅く3月下旬となった。オンシツツヤコバチの放虫は粘着板出コナジラミ確認後直ちに行なった。促成では3月26日から計8回、半促成では4月3日から計7回、いずれも週1回10a当り42カード/回を放虫した。

2.エンストリップの効果

 促成では黄色粘着板の誘殺ピークは5月14日の57頭、葉での寄生虫数は6月19日の4頭、マミー形成は6月12日、19日に1頭確認された。また、半促成では粘着板の誘殺ピークは収穫収量間際の6月12日に23頭、葉での寄生虫数は4月10日に6頭、マミーは6月5日に1頭確認された。ただし、調査株以外でのマミー形成は5月上旬に下位葉で確認できた。このようにコナジラミの発生が極めて少なく、すす病果の発生もなかったため殺虫剤を散布する必要がなかった。一方、地域全体のコナジラミの発生はすす病果多発圃場が出る等決して少ない発生ではなかった。

第1図 促成作型とツヤコバチ放虫時期

第2図 抑制及び半促成作型とツヤコバチ放虫時期

トマトに訪花するマルハナバチ

オンシツツヤコバチマミーカード設置状況(左)と、
トマト葉に形成されたマミー

3.無視できないホストフィーディング効果

 前述のような発生消長の中で特徴的であったのが、成虫は誘殺されるが寄生幼虫数が少なくしかも死亡した幼虫ばかりで、マミーが確認できないという現象である。これは天敵による幼虫の吸汁加害(ホストフィーディング)によるものと考えられた。1995年秋の試験でも50%を越えるホストフィーディングを確認したが、今回の試験でも寄生幼虫の50~100%がホストフィーディングを受けていた。発生のごく初期から天敵優位の状態を作り出せば、マミー形成が少なくてもホストフィーディングによって高い防除効果が期待できるのではないかと考えられた。

4.マミー形成をみて追加放虫を

 オンシツツヤコバチ放虫を7~8回に追加したのは、最初の放虫から1カ月経過(4回放虫済み後)してもマミー形成数が少なく、防除効果はホストフィーディングによるもので次世代のオンシツツヤコバチが確認できず放虫を中止すればコナジラミの急増を招くと考えたからである。

第3図 オンシツコナジラミの誘殺消長および
幼虫寄生数・マミー形成数(促成)

第4図 オンシツコナジラミの誘殺消長および
幼虫生数・マミー形成数(半促成)

5.マルハナバチの利用に関するアンケートから

(1)マルハナバチの利用定着

 海津町のトマト農家の95%がマルハナバチを利用しており、その内訳は抑制作型で100%、半促成および促成作型で90%の利用率となっている。昨年、マルハナバチの利用について農家にアンケートを行なった。この結果は第1表および下記に示すようである。また、マルハナバチの利用によって農薬散布が著しく制限され、殺菌剤では40%、殺虫剤では50%の削減が目立っている。しかし、薬剤散布の削減によってコナジラミ類、マメハモグリバエ、灰色かび病等病害虫は顕在化している。そこでアンケートから得られた農薬削減の影響との対策の一部を述べる。

(2)農薬削減の影響[病害虫発生への影響]

  1. 灰色かび病や葉かび病、ヨトウムシ、コナジラミが従来より増加した。
  2. 栽培期間の後半に病害虫の発生が多くなった。
  3. 病害が酷くなるまで我慢してしまう。
  4. 害虫が発生しても薬剤散布ができない。
  •  [労働への影響]
  1. 農薬散布回数、ホルモン処理等が減った分労力が管理に回せるようになった。
  2. 果実の汚れがなく玉ふきの必要がなくなったため、箱詰めが早くなった。
  3. ハウス内の農薬臭がなくなり、作業が楽にできるようになった。
  •  [安全への関心]
  1. 農薬が身体にかからないので健康に良くなった。
  2. 農薬費の節減ができるようになった。

(3)農薬削減対策[栽培環境面での対策]

  1. 天窓、サイド解放部に防虫網を張った。
  2. マルハナバチが活動できる温度管理と環境づくりに気を使った。
  3. 花弁、枯死葉、摘葉(病葉や枯れ葉等含む)をこまめに行なった。
  •  [栽培管理面での対策]
  1. 草勢維持のため、追肥と灌水に注意した。
  2. トマトの葉色、肥切れ、根傷みに注意した。
  •  [薬剤散布について]
  1. 初期防除の徹底や発生前に対策を行なった。
  2. 病害虫の発生消長を早めに知り効率的農薬散布を行なった。
  3. 農薬はマルハナバチに影響のない種類に変えた。

第1表 マルハナバチ利用による果実の変化
(注)対象人数54名
内容 比率
1.果実の形が良くなった 58%
2.果重が重くなり濃くなった 56
3.味が良くなった 18
4.小さくなった 22
5.果実肥大が遅くなった 2
6.その他(バイトマークによる負傷) 4
第2表 農薬散布回数の変化(回)
(注)前:マルハナバチ使用前、後:同使用後
作型 殺菌剤 殺虫剤
抑制 7 4.5 6.45 3.95
半促成 6.26 3.8 5.1 2.3
促成 10.56 6.74 6.4 3.63

オンシツコナジラミに加害する
オンシツツヤコバチ
 
マルハナバチで受粉したトマトを宣伝する
海津町のトマト部会員
 

6.農家も天敵導入に意欲

 3年間のエンストリップ実証試験結果から、マルハナバチ利用下では天敵農薬は不可欠だとしてトマト農家の多くがオンシツツヤコバチとマルハナバチとの組合わせ利用に意欲を示し本格的導入を図ろうとしている。試験を一緒に行なった農家もオンシツツヤコバチ使用に自信がついたという。農業改良普及センターではこれらの技術の普及を図るため研究会を重ね、農家の助言指導を行なっている。今後マメハモグリバエ、アブラムシ類等に対する天敵農薬が登録されればいっそう確かなものになるであろう。

(岐阜県農業技術課専技室)