北海道におけるタマネギの主要害虫とその防除

-ネギアザミウマを中心にして-

小高 登

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.81/B (1996.10.1) -

はじめに

 北海道のタマネギ栽培面積は全国の44%に相当する12,500haで、春移植、秋収穫の栽培体系が主体である。この栽培体系が主体である。この栽培体系における標準的な生育期は3期に大別され、第1期は定植、活着期にあたる5月上旬から6月上旬までの生育期、第2期は急速な葉の分化と伸長が行なわれる6月中旬から7月下旬までの期間で、球肥大の最盛期でもある。第3期は出葉が停止し、次第に枯れあがり、球の肥大、充実がはかられる期間である。

 北海道においてタマネギの害虫としては28種類が記録されているが、防除の対象となっているのはタマネギバエ(タネバエを含む)とネギアザミウマである。タマネギバエの防除が移植時期の苗浸漬処理や、土壌処理など、タマネギの生育初期が主体となるのに対し、ネギアザミウマは生育期間を通じて頻繁に防除が行なわれる。ネギアザミウマの被害解析と比較的な防除法については、1990~1993年に道立北見農業試験場で試験が行なわれており、本稿ではその成果の一部を紹介して、参考に供したい。


タマネギバエ幼虫と被害株

タマネギ圃場におけるネギアザミウマの発生様式

 タマネギ畑におけるネギアザミウマの発生は、雑草等で越冬した成虫の侵入に始まる。タマネギ圃場に隣接して設置したトラップ(地表上25、50、100、200cm)調査によると、地上25cmに設置した粘着版で全体の76%、50cmまでで93%が捕獲されていることから、成虫の移動は地表付近で行なわれているものと推測される。現地のタマネギ圃場におけるネギアザミウマの初期発生は、圃場の周辺環境との関連髪られており、タマネギ単作地帯よりも畑作地帯の中に点在する圃場や、草地等に隣接する圃場で発生が多い傾向にある。成虫の初発期は道央地帯で6月上旬~中旬、道東地帯では6月中~下旬で、幼虫の発生時期も道央地帯で早い。発生予察定点における平年の発生推移をみると、初発時期に差がみられるものの高温期の7月に入ると、好適な餌条件のもとに急激に密度が増加し、その増加様式は道央の長沼も道東の訓子府も同様な経過を辿っている(第1図)。

ネギアザミウマの寄生とタマネギの被害

 ネギアザミウマはタマネギの組織を突き崩して食害するので、初めのうちはカスリ状の白い斑点となるが、被害が進むと全体が緑を失い、芯葉の出葉が止まり、やがて枯凋する。その結果草丈の矮小化、球の小型化、減収などを招く。ネギアザミウマの発生推移がら密度が急増する7月を重点とする防除の有効性を明らかにするため、7月の寄生量と被害の関係を調べた結果、一定の相関関係が得られている(第1表)。また、寄生虫数は、各調査日毎の寄生数を平均し、累積した寄生数を指標とすることで被害との相関が高くなっている。草丈との累積寄生虫数は、調査日の関係から7月20日までの累積寄生虫数で相関を求めている。累積寄生虫数から被害が予想されるおおよその数値は、草丈で500頭、一球重や規格内収量では1,000頭以上と考えられ、草丈の矮小化、一球重の減少や減収の傾向が強くなっている(第2図)。これらの寄生虫数を単純に株当り寄生虫数に換算すると、草丈で25頭、一球重や収量では30頭以上と推定される。

第1表 寄生虫数と生育・収量の相関
項目 草丈 収量 1球重
時期 7.2 -0.879 -0.729 -0.888
7.11 -0.922 -0.785 -0.909
7.21 -0.755 -0.656 -0.718
8.1   -0.665 -0.593
累積 7.20 -0.966 -0.824 -0.948
7.31   -0.875 -0.996

第1図 予察圃無防除の消長 第2図 累積寄生虫数と草丈(上)、1球重(中)、
収量(下)との相関図

防除時期と回数

 タマネギの慣行防除は5~10日間隔のスケジュール散布であるが、ネギアザミウマの密度増大期である7月を重点に、最高5回の散布を行なって累積寄生虫数を比較した。この試験はネギアザミウマの多発条件下で行なわれたが、3回以上の散布では散布回数数間に大きな差は認められず、いずれも被害の目安である平均株当り頭数30頭を大幅に下回った。この結果から5~10日間隔の3回連続散布を柱に、散布開始時期の検討を行なったところ早期からの散布が後期散布よりも効果が高くなっている(第2表)。また、この発生条件下では、2回散布でも十分な結果が認められている(第2表、括弧表示)。

現行薬剤の効果と防除体系

 1990年はネギアザミウマの発生時期が早く、多発条件下での試験であり、7月4、14、25日の3回、100リットル/10 a 相当を散布している。その結果7月の累積寄生虫数は無散布と比べれば低くなっているものの、アセフェート水和剤1,000倍が1,086と1,000をわずかに越え、MEP乳剤1,000倍では1,613であった。規格内収量の対無散布比ではそれぞれ123および117であった(第3表)。

ネギアザミウマ:(左から)幼虫、寄生と被害、被害株

第2表 防除開始時期と発生量(1991) 
(注) 防除月日:(A)=6.20 (B)=6.30 (C)=7.12 (D)=7.21 (E)=8.1

区分 株当たり虫数 7月累積虫数
6.08   6.25   7.10   7.19   7.30   8.12
  A   B   C   D   E  
A B C 6.9

 

20.2   3.1   1.2   15.2   4.0 228
  B C D 4.9   64.7   20.7   3.9   1.2   0.9 578
 (B C) 7.8   61.7   22.8   3.2   11.9   6.7 636
   C D E 6.0   60.6   68.6   12.4   1.8   0.3 1,129
無防除 5.3   55.8   60.6   64.0   37.2   8.2 1,756

第3表 防除効果試験(北見農試)
試験年次 処理区分 希釈倍率 累積虫数 規格内収量
(トン)
1990 アセフェート水和剤 1,000 1,086 3.88
MEP乳剤 1,000 1,618 3.67
無処理 - 2,362 3.14
1993 アセフェート水和剤 1,000 459 4.43
プロチオホス乳剤 1,000 203 4.21
無処理 - 1,453 3.71


 1993年は少な目の発生下における試験で、散布は7月8、14日の2回、120リットル/10a相当を散布している。7月の累積寄生虫は、アセフェート水和剤1,000倍で459、プロチオホス乳剤1,000倍では203と高い防除効果がみられており、規格内収量の対無散布比ではそれぞれ119、および113であった。

 ネギアザミウマに対する薬剤の効果は、発生状況によって同一薬剤でも効果に差が現われる。多発条件では防除時期を失すると薬剤の効果が不十分となり、被害を受けることになる。したがって、圃場における発生状況を把握することが防除効果をあげるうえで重要な要因となる。圃場内における初期の成虫の分布は速やかであり、多発圃場における調査では、初発日から5日後には寄生株率が10%に達し、その10日後の寄生株率は100%となった。また、この時点で幼虫の寄生もみられ、以後急速に密度が増加している。ネギアザミウマの防除は連続散布により、効果が高まることや、7月中の発生量が被害に結びついていることなどの結果から、北海道におけるネギアザミウマの防除体系は、(1) タマネギ圃場における越冬成虫の侵入モニタリングにより、成虫の寄生株率が10%に達した時点から10日以内に防除を開始する。(2) 第1回目の防除から5~10日以内に第2回目の防除を行なう。(3) 以降の防除については、7月中に寄生株率が50%に達した時点で実施する。これらの技術を基本とすることにより、ネギアザミウマの効率的な防除が出来るものと思われる。

おわりに

 ネギアザミウマは体が小さく、初めのうちはタマネギの芯葉抽出基部に接する葉の間隙等に潜んで寄生していることから、発見が遅れ、防除効果の低下を招くことがあるため、一般的には、予防的な防除が行なわれている。

 北海道では、1995年から、クリーン農業に結びつく研究成果の、現地実証展示圃の設定を行ない、地域の適応性を検討し、改善する事業を実施しており、タマネギについてもその一環に取り入れられている。ネギアザミウマの発生モニタリングによる効率的な防除技術の定着が望まれるところである。

(北海道立北見農業試験場)
(現北海道立花・野菜技術センター)

防除区(前)と無防除区(奥)の被害状況