オンシツツヤコバチの羽化に対する環境温度の変化
和田 哲夫
中村 善二朗
- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.79/F
(1996.4.1) -
はじめに
オンシツツヤコバチの羽化、生育および産卵(寄生)に及ぼす温度の影響については既に多くの研究報告がある。10℃以下の温度では羽化率が低下し、産卵寄生率も低下することが報告されている。また、35℃以上の高温条件下では活動性が低下し、しかも産卵寄生率の低下がみられるとの報告がある。オンシツツヤコバチのマミーは増殖生産業者から速やかに使用する農家まで輸送され、直ちに温室内に放飼することが望ましいが、実際面での輸送条件はオンシツツヤコバチにとって決して好条件とは言えない。輸送中の温度が羽化のための適温(20~30℃)で、しかも輸送時間が24時間以上、長時間に亘る場合は、使用者に届いたときには既にかなりのオンシツツヤコバチが羽化しているケースがある。また、オンシツツヤコバチ剤の品質を維持するため、羽化の進まない低温条件で輸送しても、使用者に届いた後、直ちに放飼できない場合には、通常、室温で放置される可能性がある。特に、外気温の高い時期、すなわちマミーの羽化に好適な条件下に放置された場合にはマミーの羽化が著しく進み、放飼時には羽化したオンシツツヤコバチの活性が低下する可能性が考えられる。また、マミーを凍結した場合には、当然マミーは死亡してしまう恐れがある。また、たとえオンシツツヤコバチ剤が適切な条件で輸送され、施設場内に放置されたとしても、施設内の夜間温度が低下してマミーの羽化のための適切な温度条件以下になる場合が考えられる。
以上のような場合を想定して次の試験を計画、実施したのでその概要を報告する。
実験1.オンシツツヤコバチ剤の羽化に対する施設内夜間温度の影響
試験の概要
温室内の夜間温度の低下に伴うオンシツツヤコバチの羽化率の消長をみるために、昼間および夜間温度差のモデル実験として、昼間の約8時間を25℃、夜間の約16時間の温度を10℃に設定して、シャーレ中に入れたカード当りの日毎のオンシツツヤコバチ羽化数および11日間の累計羽化数を計測した。
対照として24時間継続して25℃の条件下においた場合の羽化数についても計測して両者を比較検討した。なお、本試験に用いたオンシツツコバチ剤は1カード当りのマミー数約130個のものを用い、試験はほぼ同一の温度条件下で2回繰り返した。
試験結果および考察
試験1の結果を第1図に示した。
25℃に室内に24時間継続しておいた場合におけるマミーは7日後までにほぼ完全に羽化が終了した。一方、夜間温度10℃/昼間温度25℃においたマミーの羽化にはピークが見られず、11日後においても羽化の継続がみられた。また、カード当りの総羽化数は25℃に24時間継続放置した場合に比較して、夜間温度を10℃に下げた場合においては明らかに低下した。
試験2の結果を第2図に示した。試験1とほぼ同様の結果が得られた。
秋期から春期における温室内の夜間温度および昼間温度には、通常大きな温度差があり、このような条件下でオンシツツヤコバチ剤を使用した場合にはマミーの羽化および成虫の活動が低下して、農薬としての防除効果の低下する恐れが考えられる。夜間と昼間の温度差がマミーに対する羽化への影響を試験的に確認するため、上記2試験を行なったところ、夜間温度が10℃に低下した場合オンシツツヤコバチの羽化数は減少し、羽化のピークが認められず、羽化に長時間を要した。以上の結果から、オンシツツヤコバチを農薬として有効に使用するためには施設内の夜間温度を出来うる限り高める必要があると考えられる。
第1図 羽化に対する夜間温度の影響(試験1)
第2図 羽化に対する夜間温度の影響(試験2)
実験2.オンシツツヤコバチ製剤(マミー)の低温保存の可能性
試験の概要
オンシツツヤコバチ製剤が販売店あるいは使用者である農家に到着後、何らかの事情で直ちに放飼出来なかった場合を想定し、オンシツツヤコバチ剤のカードをシャーレに入れ、5℃の冷蔵庫内で、3日、7日および14日間保存し、その後、順次室温(20℃)に14日間放置して、経日的に毎日の羽化数と累計羽化数を算出した。また、羽化率の推移についても観察した。なお、本試験に用いたオンシツツヤコバチ剤は1カード当りのマミー数約130個のものを用いた。また、入手直後より室温に放置した場合における羽化数および羽化率を対照とした。
試験結果および考察
日毎の羽化数を第3図に示し、累計羽化数を第4図に示した。
1日当りの羽化数は、冷蔵保存せずに入荷直後から20℃の室温に放置したマミーの場合には室温放置後7日目から9日目までにピークがみられたのに対し、冷蔵庫に3日および7日間保存した場合のマミーの羽化のピークは9日~10日とやや遅れ、14日間冷蔵庫に保存したマミーは羽化のピークが11日~12日と更に遅くなる傾向を示した。 羽化数の累計は5℃の冷蔵庫に3日および7日保存したマミーの場合、羽化数は1カード当り60~70頭観察され、冷蔵保存せずに入荷直後室温で放置したマミーの羽化数とほぼ同等であった。
しかし、5℃冷蔵庫に14日間保存したマミーの累計羽化数は室温14日放置後においても1カード当り約40頭に過ぎなかった。
累計羽化率について第5図に示した。
図に見られるように冷蔵庫に3日間および7日間保存したマミーの累計羽化率は冷蔵せず入荷直後から室温に放置したマミーと同等の羽化率(50~60%)を示した。しかし、5℃に14日間保存した場合の羽化率は明らかに低下した。
以上の結果から、やむを得ずオンシツツヤコバチ剤の保存が必要な場合は約5℃の冷蔵庫内で7日間保存してもマミーの羽化に及ぼす影響が少なく、保存は可能であろうと考えられる。
第3図 低温(5℃)保存の影響
第4図 低温(5℃)保存の影響(累計羽化数)
第5図 低温(5℃)保存の影響(羽化率推移)
おわりに
オンシツツヤコバチ剤を使用してオンシツコナジラミの防除を行なうためには使用量、使用時期および使用方法を誤らないように注意する必要があるが、特に輸送中の温度および施設内の温度管理に十分注意を払う必要があると考える。
文献
1)Burnett,T.(1949)Ecology 30:113~134
2)Kajita,Hand van Lenteren,J.C(1982) Sonderuck aus Bd. 93,H.5,S.430~439
(株式会社アリスタ ライフサイエンス)