山梨県における
ブドウの主要害虫の生態とその防除―2
ブドウの主要害虫の生態とその防除―2
功刀 幸博
- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.76/C
(1995.7.1) -
(No.75より続く)
(3)ワタアブラムシ
従来、ブドウでのアブラムシ類の発生は、ほとんど認められなかった。しかし、ここ数年、甲斐路、巨峰等でワタアブラムシの寄生が目立ち始め、にわかに重要害虫となりつつある。ブドウへの寄生は、開花期前後に認められ、新梢先端および花穂に多い。栽培農家は開花前の房作り時に、果房がなんとなく粘つくことで発生に気付くことが多いようである。前述したようにブドウに寄生している期間は比較的短いが、開花期に当たるため結実率の低下を招くこととなる。
ブドウに作物登録のある薬剤を含めた防除試験の結果を第3表に示した。供試薬剤の中では、イミダクロプリド水和剤2,000倍が卓効を示し、この時期のチャノキイロアザミウマおよびフタテンヒメヨコバイ防除剤として本剤を用いることで同時防除が可能であることが明かとなった。
(4)ダニ類
ハダニ類では、施設栽培でカンザワハダニの発生が認められたが、露地ではほとんど問題にならない。防除上の大きな問題はないものの近年増加傾向にある害虫の一つである。デラウエアの施設栽培では、落花期に酸化フェンブタスズ水和剤1,500倍を用い、収穫後にはボルドー液にピリダベン水和剤1,000倍を混用しヨコバイ類との同時防除を実施している。
他のダニ類としては、施設、露地を問わずブドウサビダニが増加傾向にある。本種は、フシダニ科に属し、紡錘形で淡橙黄色を呈する。雌成虫の体長は0.15mm程度で肉眼で確認するのは困難である。このため7~8月頃にすすで汚れたようになった被害葉を見て初めて発生に気付くことが多い。しかし、収穫を間近に控えたこの時期では、収穫前日数や果実汚染の問題から薬剤防除が実施できない場合が多い。被害の多い品種としては、甲州、ネオ・マスカット、巨峰、デラウエアなどがあげられる。ハダニ類とは異なり葉表にも多く寄生するのが特徴で、施設デラウエアの多発園では、果房への寄生も認めている。このような多発園では、着色不良など果実品質に与える影響は大きい。
防除は、ハダニ類との同時防除をかねて、5月下旬~6月上旬および7月中旬頃に前記2薬剤とフェンピロキシメートフロアブルで対応している。
試供薬剤・濃度 | 10果房当たりの寄生虫数 | 薬 害 | |||
散布前 | 散布2日後 | 8日後 | 13日後 | ||
イミダクロプリド水和剤 2,000倍 | 1,000 | 0 | 0 | 0 | ― |
フルバリネート水和剤 8,000倍 | 715 | 18 | 21 | 4 | ― |
DMTP水和剤 1,500倍 | 751 | 89 | 55 | 29 | ― |
ESP乳剤 1,500倍 | 897 | 726 | 115 | 10 | ― |
無散布 | 844 | 1,287 | 117 | 14 | ― |
第3表 ブドウのワタアブラムシに対する各種薬剤の防除効果 (1994、山梨果試)
花穂に寄生したワタアブラムシ |
|
ブドウセビダニ(森氏原図) |
ブドウトラカミキリ |
|
フタテンヒメヨコバイ |
(5)ブドウトラカミキリ
結果母枝内で越冬した幼虫が、4月下旬~5月になると活発に食害を始めるため、加害部位から先の新梢が突然枯死する。被害面積は減少傾向にあるが、山付き地帯の防除不徹底園では、甚大な被害を受ける場合がある。
防除は8月~9月の成虫発生期(第2図参照)にMEP水和剤1,000倍(大粒系品種に限る)を用い、食入幼虫に対しては10月下旬~11月上旬にマラソン・MEP乳剤、ダイアジノン・NAC・PAP乳剤、MEP・PAP乳剤いずれか200倍で対応している。
(6)フタテンヒメヨコバイ
放任状態に近い収穫後の施設で激発する場合があるが、通常チャノキイロアザミウマとの同時防除により実被害はほとんど認められない。かつては主要害虫として位置づけられていたが、ここ数年、防除暦の編成会議でも本種の名前を聞くことは稀である。
(7)その他の害虫
ハスモンヨトウによるブドウの被害葉と下草の食害(左) |
近年ブドウの二期作栽培(無休眠で年2回収穫する栽培体系)が各県で試みられているが、この作型の導入にともない、山梨県ではハスモンヨトウによる被害が問題となっている。本年(1994)は超早期加温(年内被覆)のハウスでも発生が目立ち対策に苦慮している。このような施設内では冬場の低温に遭遇しないため、越冬が容易に行なわれているものと思われる。
被害は葉の食害が中心で、発生は生育初期から収穫期まで長期にわたる。防除困難の原因としては、
・発育ステージのバラツキが大きい。
・中老齢幼虫になると薬剤の効果が劣る。
・果粒肥大がすすむと汚染の問題で薬剤散布がおもうように実施できない。
などの点があげられる。今後の対策としては被覆前の成虫の侵入防止、蛹化場所出ある土壌の中耕(除草もかねる)などの耕種的防除に加え、交信撹乱剤の利用についても検討中である。
第2図 ブドウトラカミキリの成虫羽化率の推移(山梨果試)
(注)’83~’92年の平均
おわりに
近年問題となっている害虫を中心に山梨県の状況を述べてきたが、ワタアブラムシやハスモンヨトウのように、以前は問題視されなかったものが数年で防除対策害虫となるなど、その移り変わりには目を見張るものがある。国外からの侵入の定着を含め、地方の試験研究関としては、現場で生じている問題をいち早く把握し、適切な対応ができるよう努力したい。
(山梨県果樹試験場)