核果類加温栽培の受粉作業へのクロマルハナバチ利用
農薬ガイドNo.114/A(2008.8.30) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:新谷 勝広
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1.はじめに

 山梨県におけるオウトウやモモの加温栽培は、早期出荷による高収益確保や露地栽培との労力分散などを目的とした作型として位置づけられ、重要な役割を果たしている。オウトウやモモなどの核果類の加温栽培では、自家不和合性のオウトウはもとより、自家和合性のモモにおいても結実を確保するために人工受粉が必須の作業となっている。山梨県の農業経営指標によると、作業全体に占める人工受粉の割合は、オウトウで15%、モモで4%になる。人工受粉の労力は開花期の短期間に集中し、また、上向きの姿勢での作業が続き労力負担も大きいことから、見かけ以上の重労働となっており作業の省力化が求められている。

 そこで筆者らは、施設栽培のトマトなどで受粉用に広く利用されているマルハナバチ類がこれら核果類の受粉作業にも利用できないかと考え試験を実施してきた。そして、セイヨウオオマルハナバチ、クロマルハナバチともに人工受粉を省力化できる資材として有効であることを明らかにした(新谷ら2005,2007)

本稿では、在来種のクロマルハナバチの核果類加温栽培における訪花特性や利用方法、マルハナバチを利用した場合の経済性について検討した内容について紹介する。


▲オウトウの人工授粉作業

▲モモの花に訪花するクロマルハナバチ

2.試験方法

(1)加温ハウス内におけるクロマルハナバチの活動実態調査
 クロマルハナバチの訪花活動を明らかにすることを目的に、巣箱からの出巣個体数の時間的推移を2006年4月9日に山梨県果樹試験場内のオウトウ無加温ハウスで調査した。
 また、結実確保に必要な導入群数を明らかにするために、1群が1日に訪花できる花数を推定した。調査は、数匹の働きバチをポスターカラーで個体識別し、1日の巣外活動時間と、1分間当りの働きバチ1個体の訪花数を調査した。


▲第1図 クロマルハナバチ出巣個体数の時間的推移と施設内温度の推移

(2)結実調査
 オウトウおよびモモの加温ハウスにクロマルハナバチのコロニーを導入し、マルハナバチによる結実率を調査した。調査は2004~2006年にかけて現地圃場と果樹試験場内圃場とで行なった。また、一部のオウトウ試験圃場で、圃場内の結実の偏りがあるかどうかを明らかにするため、圃場周辺部と中心部、樹冠上部と下部に分けて、クロマルハナバチでの受粉による結実率を調査した。

(3)マルハナバチ導入による作業時間の削減
 現地および果樹試験場内の結実調査圃場において、マルハナバチを導入する前と導入した後での人工受粉の作業時間を比較した。調査は試験実施農家への聞き取りにより実施した。

▲結実したオウトウ
▲圃場に設置した巣箱

3.試験結果および考察

(1)加温ハウス内におけるクロマルハナバチの活動実態調査
 クロマルハナバチは、まだ薄暗い午前5時過ぎから活動を開始した。その後午前7時頃より活動は活発化し、午後5時頃まで活発に活動した。このことから、施設栽培のオウトウにおいてもクロマルハナバチは十分な訪花活動を行ない、最低温度が10℃前後になる早朝でも活動することが判った。
 また、個体識別した働きバチの1日の巣外活動時間は500分であり、働きバチ1個体当りの1分当りの訪花数は8.6花であった。クロマルハナバチ1群当りの1日の訪花数は、1個体当りの1日の巣外活動時間に1分当りの訪花数と巣外活動する働きバチ個体数を乗じることにより推定できる。クロマルハナバチ1群の働きバチ個体数を100個体とし、その1割が巣外活動をすると仮定すれば、1群における1日の訪花数は約43,000花と推定された。

(2)結実調査
 クロマルハナバチによる受粉の結実率は、オウトウ、モモのいずれも年次変動はあるものの、人工受粉を行なった区とほぼ同程度の結実率を確保できた。
 また、圃場の中心部と周辺部、樹冠上部と下部に分けて結実率を調査した結果、いずれの部位でも偏り無く結実することも明らかとなった。
 これらの結果から、クロマルハナバチは人工受粉作業を補完する資材として十分に利用可能であると考えられた。 これらの試験事例と1日に訪花可能な花数から、10a当りの導入群数は、オウトウで2~3群、モモで1~2群が目安となると考えられる。

(3)マルハナバチ導入による作業時間の削減
 結実調査圃場において、マルハナバチ導入前後の作業時間を聞き取り調査した。その結果、オウトウとモモのいずれもマルハナバチ導入前に比べて、導入後に人工受粉の作業時間が削減された。また果樹試験場内のオウトウ圃場では、クロマルハナバチによる受粉のみで、人工受粉は一切行なわなかったが、十分な結実を確保できた。これらのことから、マルハナバチを導入することで人工受粉作業の省力化も可能であることが明らかとなった。


▲第2図 モモにおける結実率


▲第3図 オウトウにおける結実率


 第4図 クロマルハナバチ受粉によるオウトウの部位別結実率(調査品種は「高砂」)


▲第1表 マルハナバチ導入前後における人工授粉作業時間の比較

セイヨウオオマルハナバチを使用。これ以外はクロマルハナバチを使用。
※※ 聞き取り調査によるマルハナバチ導入前の作業時間を100とした場合の省力化率。
  巣箱の設置時間や貯蔵花粉採集時間は含まない。

4.おわりに

 果樹類でも、トマトなどの果菜類と同様にマルハナバチを利用できることが明らかとなった。しかし、オウトウやモモなどは開花期間が2週間程度であるため、マルハナバチの導入のタイミングが遅れると受粉適期を逃してしまうこととなるので、樹体の生育状況を観察しながら開花初期から導入することが重要である。また、オウトウやモモの開花期間は、マルハナバチの利用期間に比べ短いことから、開花時期が異なる複数の加温ハウスで連続的に利用することも有益な利用方法であると考えられる。

(山梨県果樹試験場)

引用文献
新谷勝広・富田晃・渡辺晃樹・池田二三高・猪股雅人・光畑雅宏(2005)園学雑74(別2):132
新谷勝広・富田晃・萩原栄揮・渡辺晃樹・池田二三高・光畑雅宏(2007)園学研6(別2):474


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