はじめに
タバココナジラミBemisia tabaciは、ナス科、ウリ科など多種類の野菜・花き類を加害する世界的な重要害虫である(Perring,
2001)。本種には、複数のバイオタイプが存在し(Perring, 2001)、これまでわが国では、トマト黄化葉巻ウイルスを媒介するバイオタイプB(シルバーリーフコナジラミ)、サツマイモやスイカズラに発生する在来系統および沖縄県石垣島に生息している在来系統の発生が確認されていた(本多、2005)。しかし、2004年に広島県、熊本県および鹿児島県において、わが国では未記録のバイオタイプQ(幼虫:写真1)の発生が確認された(Ueda
and Brown, 2006)。本種は、その後も急速に地理的分布を拡大し、2007年2月28日現在、西日本地域を中心に1都2府33県で発生が確認されている。京都府では2005年に初めて発生を確認し、2006年12月までに府の南部地域を中心に発生を確認している(德丸ら、未発表)。
バイオタイプQは、トマト黄化葉巻ウイルスを媒介するだけでなく、これまでコナジラミ類による被害がほとんど問題にならなかったピーマン(松浦、2006,広瀬、2006)やトウガラシ類(被害:写真2)で多発し、大きな被害を与えている。本種は、イベリア半島原産であり、スペイン、イタリア、イスラエルおよび中国(Zhang
et al., 2005)に分布しているが、スペインではネオニコチノイド系殺虫剤に対する抵抗性が発達している個体群が確認されている(Rauch
and Nauen, 2003)。
|
▲写真2 タバココナジラミバイオタイプQによるトウガラシ類の被害 |
本種の日本産個体群の薬剤感受性については、これまでに宮崎県(松浦,2006)、熊本県(樋口,2006)、高知県(広瀬,2006)個体群などで報告されているが、主に成虫の感受性についてであり、幼虫の感受性はあまり詳しく調べられていない。そこで、著者は、浜村(1997)が示すキャベツ葉浸漬・水挿法により、合計42種類の薬剤に対するタバココナジラミバイオタイプQの3齢幼虫の薬剤感受性を調べた。
タバココナジラミバイオタイプQの薬剤感受性
(1)供試虫
2006年6月9日に京都府精華町のハウストウガラシから採集し、キャベツ(品種:おきな)を寄主植物として累代飼育した個体((独)野菜茶業研究所で同定済み)の3齢幼虫を用いた。累代飼育は、25℃長日条件(15L9D)に設定した恒温器内で行なった。
(2)供試薬剤
試験は、第1表、第2表のとおり有機リン剤、カーバメート剤、ネライストキシン剤、合成ピレスロイド剤、IGR剤、ネオニコチノイド剤、殺ダニ剤、その他の合成殺虫剤、気門封鎖剤、微生物剤および合成殺菌剤の中から選定した合計42種類の薬剤について調べた。
第1表 タバココナジラミバイオタイプQ3齢幼虫寄生キャベツ葉に各種薬剤を処理した時の補正死虫率Ⅰ
(25℃、15L9D) |
薬剤名 |
処理濃度(倍) |
供試個体数(匹) |
補正死虫率(%) |
有機リン剤 |
アセフェート水和剤 |
ピリミホスメチル乳剤 |
DDVP75乳剤 |
DMTP水和剤 |
MEP乳剤 |
|
|
1,000 |
|
|
500 |
|
|
1,500 |
|
|
1,000 |
|
|
1,000 |
|
|
|
|
カーバメート剤 |
ベンフラカルブ顆粒水和剤 |
メソミルドライフロアブル |
|
|
|
|
ネライストキシン剤 |
カルタップSG水和剤 |
チオシクラム水和剤 |
|
|
|
|
合成ピレスロイド剤 |
エトフェンプロックス乳剤 |
シペルメトリン乳剤 |
フルバリネート乳剤 |
ペルメトリン乳剤 |
|
|
|
|
IGR剤 |
フルフェノクスロン乳剤 |
ブプロフェジン水和剤 |
フェンピロキシメート・
ブプロフェジン水和剤 |
|
|
|
|
ネオニコチノイド剤 |
アセタミプリド水和剤 |
イミダクロプリド顆粒水和剤 |
クロチアニジン水容剤 |
ジノテフラン顆粒水和剤 |
チアメトキサム水容剤 |
ニテンピラム水溶剤 |
|
|
2,000 |
|
|
10,000 |
|
|
2,000 |
|
|
2,000 |
|
|
2,000 |
|
|
1,000 |
|
|
|
|
27.8 |
|
|
5.0 |
|
|
39.4 |
|
|
57.5 |
|
|
8.4 |
|
|
59.5 |
|
|
|
第2表 タバココナジラミバイオタイプQ3齢幼虫寄生キャベツ葉に各種薬剤を処理した時の補正死虫率Ⅱ
(25℃、15L9D) |
薬剤名 |
処理濃度(倍) |
供試個体数(匹) |
補正死虫率(%) |
殺ダニ剤 |
アセキノシル水和剤 |
酸化フェンブタスズ水和剤 |
デブフェンピラド乳剤 |
ビフェナゼート水和剤 |
ピリダベン水和剤 |
フェンピロキシメート水和剤 |
ミルベメクチン乳剤 |
|
|
1,000 |
|
|
2,000 |
|
|
2,000 |
|
|
1,000 |
|
|
1,000 |
|
|
1,000 |
|
|
1,500 |
|
|
|
83 |
|
|
292 |
|
|
91 |
|
|
108 |
|
|
204 |
|
|
188 |
|
|
182 |
|
|
|
55.4 |
|
|
50.2 |
|
|
57.4 |
|
|
19.6 |
|
|
100.0 |
|
|
95.2 |
|
|
100.0 |
|
|
その他合成殺虫剤 |
エマメクチン安息香酸塩乳剤 |
クロルフェナピル水和剤 |
スピノサド顆粒水和剤 |
トルフェンピラド乳剤 |
ピメトロジン水和剤 |
ピリダリル水和剤 |
|
|
2,000 |
|
|
2,000 |
|
|
5,000 |
|
|
1,000 |
|
|
3,000 |
|
|
1,000 |
|
|
|
|
66.9 |
|
|
10.4 |
|
|
96.1 |
|
|
87.2 |
|
|
17.3 |
|
|
38.5 |
|
|
気門封鎖剤 |
オレイン酸ナトリウム液剤 |
脂肪酸グリセド乳剤 |
デンプン液剤 |
ナタネ油乳剤 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
(3)試験方法(第1図)
試験は、25℃、長日条件(15L9D)下で行なった。試験管に水挿ししたキャベツ葉(直径約10㎝程度)をプラスチック製飼育ケージ(20㎝×20㎝×30㎝)に入れた。その飼育ケージにタバココナジラミバイオタイプQの成虫を約100匹程度放飼し、24時間産卵させた。その後、取り出したキャベツ葉を試験管に水挿しし、14日後の3齢幼虫に薬剤処理した。供試薬剤はすべて常用濃度とし、展着剤としてポリオキシエチレンドデシルエーテル10%・ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル10%・リグニンスルホン酸カルシウム12%製剤(商品名:新グラミン)3,000倍液を加用し、3齢幼虫が寄生したキャベツの葉部を10秒間浸漬処理した。処理後は、引き続き試験管に水挿しして飼育した。処理前の幼虫数および処理10日後の羽化成虫数(脱皮殻数)を実体顕微鏡下で調査し、死虫率を求めた。死虫率は、水処理の値を対照としてAbbott(1925)の方法により補正した。
|
Ⅱ:直径10㎝程度のキャベツ葉を切り取り、試験管に水挿しし、飼育ケージに入れ24時間産卵させる |
|
Ⅲ:産卵14日後の3齢幼虫が寄生したキャベツ葉を、10秒間薬液に浸漬処理 |
|
Ⅳ:試験管に水挿しし、10日後に羽化個体数(脱皮殻数)を数え、死虫率を求める |
(4)結果
各種薬剤のタバココナジラミバイオタイプQ3齢幼虫に対する殺虫効果を第1表、第2表に示した。3齢幼虫の補正死虫率が90%以上となった薬剤は、フェンピロキシメート・ブプロフェジン水和剤、ピリダベン水和剤、フェンピロキシメート水和剤、ミルベメクチン乳剤、スピノサド水和剤、ナタネ油乳剤およびボーベリア・バシアーナES乳剤であった。補正死虫率が70%以上90%未満となった薬剤は、ピリミホスメチル乳剤およびトルフェンピラド乳剤であった。補正死虫率が50%以上70%未満となった薬剤は、DMTP水和剤、ジノテフラン水溶剤、ニテンピラム水溶剤、アセキノシル乳剤、酸化フェンブタスズ水和剤、テブフェンピラド乳剤、エマメクチン安息香酸塩乳剤、オレイン酸ナトリウム液剤およびDBEDC乳剤であった。
本種3齢幼虫に対する殺虫効果を薬剤の系統間で比較すると、ダニ剤では、補正死虫率が50%以上を示した剤が多かった。有機リン剤、IGR剤、ネオニコチノイド剤、気門封鎖剤、その他合成殺虫剤および合成殺菌剤では、薬剤の種類により感受性に差がみられた。カーバメート剤、ネライストキシン剤及び合成ピレスロイド剤に対する感受性は低かった。
おわりに
本試験の結果、タバココナジラミバイオタイプQの3齢幼虫に対する殺虫効果が高い薬剤は非常に少なかった。また、本種の成虫に対する殺虫効果が高い薬剤も少ないと報告されている(樋口、2006,広瀬、2006,松浦、2006)。また、本種が多発しているトウガラシ類では、使用できる薬剤の種類は非常に少ない。したがって、本種の薬剤を中心にした防除には限界があると考えられる。今後は、化学薬剤以外の物理的防除法(黄色粘着ロール、防虫ネットおよび光反射シート)および生物的防除法(微生物剤および天敵昆虫)を組み合わせた防除体系を構築する必要がある。
引用文献
Abbott, W. S. (1925) J. Econ. Entomol. 18:265-267.
浜村徹三(1997)植物防疫51: 290-293.
樋口聡志(2006)今月の農業50 (9): 84-88.
広瀬拓也(2006)今月の農業50 (10): 13-16.
本多健一郎(2005)植物防疫59: 299-304.
松浦 明(2006)今月の農業50 (2): 57-61.
Perring, T. P. (2001) Crop Protection 20: 725-737.
Rauch, N. and R. Nauen (2003) Arch. Insect Biochem. Physiol.
54: 165-176.
Ueda S. and J. Brown (2006) Phytoparasitica 34: 405-411.
Zhang, L. P. et al. (2005) J. Appl. Entomol. 129: 121-128.
|