1.はじめに
ヒョウタンゾウムシ類は、野菜、畑作物および林木の害虫として古くから知られているが、全国的に多発生することはなく、被害は散発的であった。また、本害虫の生態は複雑であり、生活史は完全には解明されておらず、登録農薬も少ないため、これまで効果的な防除方法が確立されていなかった。
千葉県ではニンジン、ゴボウ、ラッカセイで継続的に被害が発生していたが、最近になってネギをはじめ、ダイコン、コマツナ、ホウレンソウなど多くの作物に被害が拡大している。千葉県農業研究センターでは、行政および普及機関と共同で現地調査及び薬剤試験に取り組んできた。ここでは、これまでの試験研究成果の中からラッカセイにおける防除対策を中心に紹介する。
2.ヒョウタンゾウムシ類の種類と特徴
(1)ヒョウタンゾウムシ類の種類
千葉県では、トビイロヒョウタンゾウムシとサビヒョウタンゾウムシの2種が発生している。両種を外見から分類するのは難しいが、両種の生態はほぼ同じであり、防除を検討するうえで区別して対応する必要はないと考えられる。
(2)ヒョウタンゾウムシ類の形態および生態
卵は寄主植物の株元の地表面やごく浅い地中に産下される。幼虫は足がなく、乳色から黄白色をしている(写真1)。地中で根を食害して10㎜程度まで成長し、地中で蛹化する。根域に分布するため、ゴボウの圃場では深さ1m以上まで生息している。25℃の場合、産卵から約2週間で孵化し、約2ヵ月で蛹化、蛹化から2週間で羽化する。
成虫の体長は6~9㎜(写真2)、体色は灰褐色~黒褐色で、頭部が小さく胸部と腹部が大きいヒョウタン型をしている。頭部は長い鼻状になっている。後翅は退化しており、移動は歩行のみで行なう。垂直な面でも登るため、障壁により移動を妨げることはできない。
成虫は10月になると雑草や冬作物の株元、枯れ草の下などの地表面で越冬する。秋に地中で羽化した成虫は、羽化した場所でそのまま越冬することもある。4月中下旬から成虫が地上に出現し、6~8月ころまで生存して産卵する(第1図)。早くに産卵されて孵化した次世代幼虫は、7~8月に羽化して地上に現れる。この成虫の産卵数は少ないものと考えられる。遅くに産卵された次世代幼虫は羽化せず、幼虫態で越冬する。なお、2月にニンジンを播種してトンネルをかけた場合、3月頃から活動を開始する。
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▲写真1 トビイロヒョウタンゾウムシの外観 |
注)上から蛹、成虫、幼虫。幼虫には足が無い。 |
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▲写真2 サビヒョウタンゾウムシの外観 |
注)目盛りは1mm |
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▲第1図 ヒョウタンゾウムシ類の生活史(推定)と防除対策 |
(3)ヒョウタンゾウムシ類の寄主植物
ラッカセイ、ニンジン、ネギ、ゴボウ、エンドウ、インゲン、ダイズ等の豆類、スイカ、カボチャ、キュウリ等のウリ類、フキ、イチゴ、ニラ、ジャガイモ、ホウレンソウ、サツマイモ、ムギ、トウモロコシ、コマツナ、ダイコン、カブ、レタス、ナス、ミツバ、キク科の花き、ヘイオーツ、オーチャードグラス、ハコベ、ホトケノザ、オオバコ、カラスノエンドウ、クローバー、キク科雑草、林木苗など多数である。
3.被害の状況
成虫は作物の葉を食害する。播種後または定植後、子葉や若い本葉が食害された場合、生育遅延や枯死の原因となるため、影響が大きい。播き直しや苗の植え替えを余儀なくされる場合もある。ラッカセイや根菜類では、地上部がある程度成長している場合、葉の食害による影響は小さいと考えられる。葉菜類では、葉が食害されて商品価値がなくなる。
幼虫は作物の根を食害する。根菜類の場合、根の表面を加害するために商品価値がなくなる。食害により根量が少なくなると、生育遅延や枯死の原因になる。ネギの場合、茎盤部やその付近が食害されて、商品価値がなくなる。
ラッカセイの場合、播種後に子葉や若い本葉が食害されると、播き直しを余儀なくされることもある。幼虫が根を食害して根量が減少するため、株の成長が遅れて黄化する(写真3、写真4)。また、幼虫が莢や子実を食害するため、商品価値がなくなる(写真5)。
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▲写真3 ヒョウタンゾウムシ類の幼虫によるラッカセイの被害圃場 |
注)黄化した株が被害株。被害株を抜き取ると写真4のように根量が少ない。 |
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▲写真4 ヒョウタンゾウムシ類に食害されたラッカセイの根 |
注)2004年1月22日調査。 |
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▲写真5 ヒョウタンゾウムシ類に食害されたラッカセイの莢 |
注)幼虫が莢の表面をかじったり、穴を空ける。中に入った幼虫は子実を食害する。 |
4.ラッカセイ栽培における防除対策
(1)薬剤防除
ラッカセイ圃場の周辺で越冬した成虫は、ラッカセイの播種後に圃場へ侵入する。この場合、ラッカセイ圃場にトクチオン細粒剤F(プロチオホス粉粒剤)を散布すると、次世代幼虫数を減少させることができる(第2図)。トクチオン細粒剤Fは2005年9月にラッカセイのヒョウタンゾウムシ類に適用拡大された。使用回数は収穫60日前まで2回で、処理量は9kg/10aである。本剤はゴボウのヒョウタンゾウムシ類にも登録がある。なお、成虫がラッカセイの葉を食害すると、左右対称の食害痕が残る(写真6)。この食害痕から成虫がラッカセイ圃場に侵入していることを推察できる。
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▲第2図 トクチオン細粒剤Fを散布したラッカセイのヒョウタンゾウムシ類の幼虫数 |
注)千葉市:品種「なかてゆたか」(5月24日播種)、6月14
日散布(9kg/10a)、7月15日に6株の幼虫数を調査。
木更津市:品種「千葉半立」(5月29日播種)。6月15日散布(9kg/10a)、7月21日に6株の幼虫数を調査。 |
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▲写真6 ヒョウタンゾウムシ類に食害された
ラッカセイの葉 |
注)ラッカセイの展開前の葉が食害されると,展開後に左右対称の食害痕が残る。 |
(2)耕種的防除
被害発生圃場で秋まで作物が栽培されていた場合、土中で成虫および幼虫が越冬する可能性が大きい(第3図)。圃場で幼虫が越冬している場合、ラッカセイの播種を遅らせて6月上旬まで圃場を空けておくと、越冬幼虫は餌を得られずに餓死すると考えられる(第1表)。この場合、餌となる根を幼虫に与えないように、ロータリー耕耘などで除草する。また、前年の作物の残根がないように圃場管理を行なう必要がある。
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▲第3 図 ヒョウタンゾウムシ類の
被害を受けた ラッカセイ圃場における越冬状況 |
注)2004年1月22日調査。前年に栽培したラッカセイで被害が発生。 |
第1表 無作付けで管理した圃場におけるヒョウタンゾウムシ類の越冬成虫および越冬幼虫
(100×100×深さ30㎝) |
調査月日 |
成虫
(頭) |
蛹
(頭) |
幼虫
(頭) |
3月14日
5月14日
5月29日
6月19日 |
1
1
1
0 |
0
0
0
0 |
13
10
10
0 |
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(注)前年にラッカセイで被害が発生した圃場。
5月1日、5月16日、6月3日、6月17日にロータリー耕耘を実施。 |
(3)一般的な防除の考え方
ヒョウタンゾウムシ類が常発している圃場および周辺の圃場では、本害虫が好む作物を連作すると被害が拡大するので、作付け体系を変える。特に好む作物はラッカセイ、ニンジン、ゴボウ、ネギである。
秋季(8~10月上旬)に何も作付けせず圃場を空けておくと、圃場内で成虫および幼虫は越冬しないと考えられる。その場合、圃場周辺で越冬した個体群が発生源となるので、翌年春の侵入対策を考える。
成虫が歩行することにより、地続きの圃場や雑草地などを経由して分布を徐々に拡大する。したがって、地域全体で本害虫に対する防除対策を実施する。多くの種類の作物に寄生するため、出荷組合などの枠を超え、生産する作物の種類等について農家相互の情報交換と連携を図る。雑草地は作物がないときの生息場所および越冬場所になっていると考えられるため、できるかぎり周辺の雑草地をなくす。
ラッカセイ、ゴボウなどの圃場では、ヒョウタンゾウムシ類の被害に気づいてから3年目に著しい被害が発生しているようである。発生当年および翌年に対策を講ずると、被害の拡大を回避できるものと考えられる。
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