はじめに
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▲第1図 イチジク果実 |
イチジク栽培においてアザミウマ類の果実への被害は大きな問題となっている。アザミウマ類は果実内を加害するため、外観的にはなんら異常が認められないが、果実を割ると内部が黄色~黄褐色に変色(第2、3、4図)し、アザミウマ類の成虫や幼虫が数頭~十数頭みられる。また、成熟した果実では死虫が多く、死体に灰白色のカビがみられ、果実の内部が腐敗している。イチジクの果実は着果後約15~20日で果頂部が開き始め、その後2~3週間開いた状態が続く。この果頂部が開く時期(横径約20~25mm)にアザミウマ類が侵入し果実内部を加害する。被害は下から1~6段あたりの果実に多い。アザミウマ類は寄主範囲が広く、雑草などにも多く寄生するため圃場周辺からの飛び込みも多く、また、有効薬剤が少ないため防除の難しい害虫となっている。
そこでオルトラン水和剤のイチジクへの登録拡大試験を実施するとともに、薬剤散布回数軽減のための防除法として、果頂部が開く前に果頂部にテープを貼付して、果実内へのアザミウマ類の侵入を物理的に防止することにより、被害果の発生を軽減することができたので紹介する。
▲第2図 幼果の被害
(左:正常 右:被害) |
▲第3図
熟果の被害
(左:正常 右:被害) |
▲第4図 被害部の拡大 |
1.アザミウマ類の発生消長
2001~2003年の5月中旬~7月下旬に、長久手町と常滑市のイチジク圃場内に青色粘着トラップを高さ約 100cmに設置し、7日間隔で取り替えアザミウマ類の誘殺数を調査した。その結果、アザミウマ類の誘殺数は3ヵ年ともに6月上旬から増え始め、6月中旬にはピークに達した。その後は6月下旬まで比較的多かったが徐々に減少していった。なかでも2002年の常滑市における調査では、ピーク時の1日当りの誘殺数は80頭に達した(第5図)。
▲第5図 イチジク圃場におけるアザミウマ類の発生消長
2.アザミウマの加害種
2002年8月に、イチジクの主要産地からアザミウマによる被害果を採集した。その果実を割り果実内のアザミウマを取り出しプレパラートを作成して、実体顕微鏡下でアザミウマの種類を同定するとともに、果実内へ侵入していたアザミウマ数を数えた。
果実へのアザミウマの加害種は、ヒラズハナアザミウマ、ハナアザミウマ、ビワハナアザミウマ、キイロハナアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ネギアザミウマの6種であった。なかでもヒラズハナアザミウマ(第6図)が全体の37.6%、ハナアザミウマが36.6%を占めて優占種となっており、ついでネギアザミウマが14.5%で多かった(第1表)。
▲第6図 ヒラズハナアザミウマ
第1表 イチジク果実内へのアザミウマの侵入種
採集場所 |
1果当りの虫数 |
調査果数 |
ヒラズハナ |
ミカンキイロ |
ビワハナ |
ハナ |
ネギ |
キイロハナ |
合計 |
大口町 |
0.7 |
0 |
0 |
0 |
1.0 |
0.1 |
1.8 |
18 |
長久手町 |
3.0 |
0 |
0 |
0.5 |
0 |
0 |
3.5 |
10 |
東海市 |
0 |
0 |
0 |
3.3 |
0.7 |
0 |
4.0 |
10 |
常滑市 |
1.4 |
0.1 |
0 |
8.0 |
0 |
0.3 |
9.8 |
7 |
安城市北部 |
0.1 |
0 |
1.7 |
1.7 |
0.9 |
0 |
4.4 |
7 |
安城市中部 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0.9 |
0 |
0.9 |
7 |
安城市南部 |
2.7 |
0 |
0 |
0 |
0.3 |
1.9 |
4.9 |
7 |
碧南市 |
0.6 |
0 |
0 |
1.9 |
0.7 |
0 |
3.2 |
23 |
豊橋市石巻1 |
6.5 |
0 |
0 |
1.8 |
0 |
0 |
8.3 |
10 |
豊橋市石巻2 |
3.4 |
0 |
0 |
0.6 |
0 |
0 |
4.0 |
10 |
御津町泙野 |
0.2 |
0 |
0 |
0.3 |
2.7 |
0 |
3.2 |
10 |
御津町上佐脇 |
0 |
1.5 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1.5 |
10 |
合計 |
18.6 |
1.6 |
1.7 |
18.1 |
7.2 |
2.3 |
49.5 |
129 |
優占率(%) |
37.6 |
3.2 |
3.4 |
36.6 |
14.5 |
4.6 |
- |
- |
ヒラズハナ:ヒラズハナアザミウマ、ミカンキイロ:ミカンキイロアザミウマ、ビワハナ:ビワハナアザミウマ、ハナ:ハナアザミウマ、ネギ:ネギアザミウマ、キイロハナ:キイロハナアザミウマ、果実(下から1~5段)採取日:2002年8月1~5日。内部が黄変・褐変している果実を調査。 |
3.薬剤による防除
オルトラン水和剤のイチジクに対する登録拡大のための防除効果試験を、品種に桝井ドーフィン(樹齢7年生)を用い、1樹/区(8.8㎡)、3連制で実施した。2004年7月1日にオルトラン水和剤を2,000倍に希釈し、背負式動力噴霧機を用いて300L/10aの割合で散布した。7月22日に各処理区から任意に
100果を選びナイフで割り、果実内の被害を程度別(0:被害なし 1:果肉の一部が黄変 2:果肉の一部が褐変 3:果肉の中心部から周辺部にかけて褐変)に調査し、被害度および被害果率を算出した。その結果、オルトラン水和剤の2000倍液散布は、アザミウマ類による被害果率が7%、被害度が
3.3となり、無処理区の被害果率34%、被害度22.0に対して高い防除効果が認められた(第2表)。果実内に侵入していたアザミウマをプレパラートにより検鏡したところ、ヒラズハナアザミウマが主体で、そのほかハナアザミウマ、ネギアザミウマも確認された。
オルトラン水和剤はイチジクのアザミウマ類で2005年3月に登録が取得され、イチジクで使用できるようになった。その内容は第3表のとおりである。
第2表 散布剤による防除効果
供試薬剤 |
希釈倍数 |
果実内被害程度 |
調査果
合計 |
被害度 |
被害果率
(%) |
0 |
1 |
2 |
3 |
オルトラン水和剤 |
2,000倍 |
93 |
4 |
3 |
0 |
100 |
3.3 |
7 |
アセタミプリド水溶剤 |
2,000倍 |
90 |
5 |
5 |
0 |
100 |
5.0 |
10 |
無処理 |
- |
66 |
8 |
20 |
6 |
100 |
22.0 |
34 |
被害程度別基準 0:被害なし 1:果肉の一部が黄変 2:果肉の一部が褐変 3:果肉の中心部から周辺部にかけて褐変
Σ(被害程度別果数×指数)×100
被害度= ――――――――――――――― ×100
調査果数×3 |
第3表 オルトラン水和剤のイチジクにおける適用害虫と使用方法
作物名 |
適用害虫名 |
希釈倍数 |
使用時期 |
本剤およびアセフェートを含む農薬の総使用回数 |
使用方法 |
イチジク |
アザミウマ類 |
2,000倍 |
収穫45日前まで |
1回 |
散布 |
4.果頂部へのテープ貼付による防除
2003年6月22日に、1~6段目のイチジク果実の果頂部が開く前に果頂部へ不織布サージカルテープ(商品名:ニチバンホワイトテープ18×18mm)を貼付(第6図)して、アザミウマ類の侵入防止効果を検討した。対照区として、アセタミプリド水溶剤2000倍を6月22日と7月2日の2回、背負式動力噴霧機を用いて10a当り
300Lで散布した区と無処理区を設置した。品種は桝井ドーフィン(樹齢6年生)を用い、1樹/区(8.8㎡)、3連制で実施した。7月23日に各処理区から任意に
100果を選び前述の方法で被害度及び被害果率を算出した。その結果、テープを果頂部へ貼付することにより被害果の発生は少なくなり、無処理区の被害果率61%に対してテープ貼付区では4%と低くなり、被害度も無処理区の29.0に対して
1.3と低く抑えることができた。また、テープ貼付区はアセタミプリド水溶剤2000倍2回散布よりも被害度、被害果率ともに低く、高い侵入防止効果が得られた(第4表)。
また、6月から7月にかけて果実の横径を測り、その時の果頂部の開閉を確認し、果頂部が開いている果実の割合を調査したところ、横径18mm以下では果頂部の開口はみられなかったが、19mmになると開口果実率は5%になり、20mmで8%、25mmでは約半数の55%となった(第5表)。
第4表 果頂部へのテープ貼付による防除効果
供試資材および薬剤 |
希釈倍数 |
果実内被害程度 |
調査果
合計 |
被害度 |
被害果率
(%) |
0 |
1 |
2 |
3 |
不織布サージカルテープ |
- |
96 |
4 |
0 |
0 |
100 |
1.3 |
4 |
アセタミプリド水溶剤 |
2,000倍 |
83 |
12 |
3 |
2 |
100 |
8.0 |
17 |
無処理 |
- |
39 |
37 |
22 |
2 |
100 |
29.0 |
61 |
不織布サージカルテープ(商品名:ニチバンホワイトテープ 18×18mm)
被害程度基準および被害度の計算式は第2表に準ずる。 |
第5表 イチジク果実の横径に対する果頂部の開口果実率
果実横径(mm) |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
24 |
25 |
26 |
27 |
28 |
開口果実率(%) |
0 |
0 |
0 |
5 |
8 |
13 |
14 |
19 |
42 |
55 |
75 |
82 |
88 |
まとめ
イチジクを加害するアザミウマ類は、イチジクの葉上で寄生・増殖はせず、周囲の雑草や作物に寄生・増殖した種がイチジク圃場に侵入してくるため、加害種および果実被害の多少は周囲の環境に大きく左右される。そのため、イチジク圃場の周囲の環境がアザミウマ類の生息に適しているがどうかを把握し、できる限り生息に適する環境を減らしていくことが重要である。
アザミウマ類によるイチジク果実の被害は、アザミウマ類の発生ピーク(6月上旬~下旬)と果頂部の開く時期の重なる1~6段あたりの果実に多い。その時のアザミウマ類の発生量を低くするためには、浸透移行性があり長期間にわたり害虫の発生を抑えるオルトラン水和剤の散布は効果的である。露地イチジクの収穫は概ね8月上旬から始まるので、オルトラン水和剤(使用時期は収穫45日前まで)の散布時期は6月上旬となる。
また、不織布サージカルテープを果頂部が開く前に果実に貼付することにより、アザミウマ類の果実内への侵入を防止し、効率的に被害を抑制することができる。テープ貼付の時期は、果頂部が開く直前が理想であるが、果頂部が開き始める時期をとらえるのは難しい。そこで、果実横径が20mmになった時を目安としてテープを貼付するのが効果的と考える。果頂部が開いてからの貼付では防除効果は期待できないので、貼り遅れないように注意し、テープにしわや果頂部との間に隙間ができないように丁寧に貼付する必要がある。
▲第7図 果頂部へのテープ貼付
(愛知県農業総合試験場 園芸研究所) |