ミヤコカブリダニを利用したイチゴのIPM
農薬ガイドNo.110/A(2005.11.30) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:柏尾 具俊
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1.はじめに

 近年、わが国では天敵昆虫や天敵微生物等の生物農薬が数多く登録され、イチゴ、ナス、ピーマンなどの施設野菜を中心としてその実用的な利用が始まりつつある。なかでも、チリカブリダニはハダニ類に対する有力な天敵であり、その利用が進められており、福岡県の促成栽培イチゴでは、普及面積が115ha(580農家)に達している。
 一方、ハダニ類の新しい天敵としてミヤコカブリダニ(商品名:スパイカル)が2003年に農薬登録された。本種は、わが国にも生息する土着種である。また、ハダニ類の他チャノホコリダニや花粉等も食べる広食性の天敵であることや飢餓や高温に強いという特性を持つことが知られており、これらの特性を活かした利用が期待されている。
 ここでは、本種の捕食能力やハダニ制御能力について紹介する。また、本種を用いた促成栽培イチゴの主要害虫のIPMを試みたので紹介したい。



2.ミヤコカブリダニの生物特性

 本種の発育期間(卵から成虫まで)は、25℃下においてカンザワハダニの卵を餌とした場合、5.1日である。チリカブリダニの発育期間は5日程度あり、大きな違いは見られない。
 カンザワハダニを餌とした場合の1雌当り最大捕食数(/日)は、卵で14.6個、幼虫で16.6頭、第2若虫で9.0頭である。雌成虫を餌とした場合の捕食数は最大で1.2頭(/日)と少ないが、試験中に産下された卵に対する捕食が認められる。これらの結果から、ハダニ類に対する捕食能力はチリカブリダニに比べるとやや劣ると考えられる。
 また、本種の雌成虫はミカンキイロアザミウマやミナミキイロアザミウマの1齢幼虫を捕食する。ミカンキイロアザミウマに対する捕食数(/雌/日)は、ふ化後24時間以内の1齢幼虫の場合は,7.3頭、ふ化後24時間以上経過した1齢幼虫の場合は4.1頭である。アザミウマの2齢幼虫、蛹、成虫に対しては、捕食行動が観察されるが、捕食に成功することはない。本種の捕食量は、アザミウマ類の生物農薬として実用化されているククメリスカブリダニとほぼ同等であり、本種はハダニ類の天敵としてだけでなく、アザミウマ類との同時防除にも利用できる可能性がある。


▲ミカンキイロアザミウマの1齢幼虫を捕食しているミヤコカブリダニ雌成虫



3.イチゴのカンザワハダニに対する制御能力

 ミヤコカブリダニはイチゴ寄生のカンザワハダニに対して放飼比率(カブリダニ放飼時の株当りハダニ密度に対するカブリダニの放飼数の比率)5:1または10:1で放飼した場合は3週間で、20:1または30:1の場合は4週間でハダニを低密度に制御した(第1図)。比較のために設けたチリカブリダニの10:1と30:1の放飼区と比較するとハダニ密度の減少速度がややチリカブリダニの方が早い傾向が見られるが、ハダニがほぼ食い尽くされるまでの日数に大きな違いは認められておらず、本種のカンザワハダニに対する制御能力は、チリカブリダニとほぼ同等と考えられる。


▲第1図 イチゴのカンザワハダニに対するミヤコカブリダニとチリカブリダニの
密度抑制効果
(平均気温18.8℃)

:ミヤコカブリダニ :チリカブリダニ :無放飼区



4.ミヤコカブリダニを用いたイチゴ害虫のIPM

 以上のようにミヤコカブリダニのハダニ類に対する捕食能力や制御能力はチリカブリダニとほぼ同等であることが分かったので、促成栽培イチゴでの本種を組み合わせたIPM体系の有効性を検討した。試験は9月上旬定植の‘とよのか’を用い、320株(0.5a)を1試験区として実施した。試験区には、ビニル被覆後に殺ダニ剤(マイトコーネフロアブル)を散布し、ハウス内のハダニの発生源をほぼ完全に断つ条件とした。その後、12月上旬にミヤコカブリダニを放飼し、翌年の2月にチリカブリダニを放飼する区(IPM1区)とミヤコカブリダニのみをする区(IPM2区)を設けた。また、対照区としてチリカブリダニのみを放飼する区(IPM3区)と化学農薬を用いる区(化学区)を設けた。なお、ワタアブラムシに対してはマルチ直前のモスピラン粒剤の株元処理とコレマンアブラバチ、ミカンキイロアザミウマに対してはハウス内の発生源を低く抑える目的でカスケード乳剤を散布し、密度が上昇する春期にタイリクヒメハナカメムシやボーベリア・バシアーナ剤(ボタニガードES)を組み合わせた防除を実施した。
 その結果、ミヤコカブリダニとチリカブリダニを組み合わせた防除体系(IPM1区)、ミヤコカブリダニのみを用いた防除体系(IPM2区)のいずれもハダニはほとんど発生しないか極めて低い密度に抑制され、チリカブリダニのみを用いた体系(IPM3区)や化学区と同等の防除効果が得られた(第2図)。
 また、アザミウマに対してはタイリクヒメハナカメムシやボーベリア菌を組み合わせることで、ワタアブラムシに対してはマルチ時の粒剤処理とコレマンアブラバチを組み合わせることで実用的な防除が可能であった(第3図、第4図)。


▲第2図 ミヤコカブリダニまたはチリカブリダニを利用したハウス栽培イチゴのハダニ防除

M:コロマイト水和剤 B:マイトコーネフロアブル E:アファーム乳剤 A:アーデント乳剤
AC:モスピラン粒剤 F:カスケード乳剤 R:マッチ乳剤 S:スピノエース顆粒水和剤
P:チェス水和剤 N:ベストガード水溶剤


▲第3図 コレマンアブラバチを利用したハウス栽培イチゴのアブラムシ防除



▲第4図 タイリクヒメハナカメムシとボーベリア・バシアーナ菌製剤を
利用したハウス栽培イチゴのミカンキイロアザミウマ防除


おわりに

 イチゴは定植時期や栽培終了の時期が地域によって異なるが、概ね、促成栽培に準じる作型で栽培される。また、栽培条件は育苗期と本圃の二つに大きく分けられる。 さらに、本圃では定植後の約1ヵ月間は露地条件で栽培され、その後、ビニールが被覆され、施設下での栽培に移る。そのため、イチゴでのIPMは育苗期、定植後の露地栽培の時期、その後の施設栽培条件の時期に分けて組み立てることが重要である。すなわち、育苗期と本圃定植後の露地条件下では、薬剤防除を徹底し、ビニル被覆後のハウス内へ病害虫をできるだけ持込まないようする。さらに、ビニール被覆直後にハダニの発生が認められない場合でも薬剤による予防防除を実施し、発生源をほぼ完全に断ち、この時期を起点として天敵類や微生物資材を利用した体系をスタートさせる。この考えにもとづいてチリカブリダニを放飼した場合、春期の栽培終了時までの高い防除効果が得られる傾向にあり、現場ではこの方法での普及が進みつつある。しかし、チリカブリダニはハダニがほとんどいない条件では定着率が悪い。また、チリカブリダニは絶食条件での生存率が悪く、天敵の保存性が低く、入手直後に放飼しなければならないなどの取扱が難しいという欠点もある。ミヤコカブリダニについてみると、ハダニがほぼ食い尽くされた後もイチゴの株でミヤコカブリダニが数週間にわたって生息しているのを観察している(未発表)。このことから、促成栽培イチゴのIPMにおいてミヤコカブリダニはビニール被覆後のハダニ発生前のスケジュール放飼が適するのではないかと考えられる。一方、チリカブリダニはミヤコ���ブリダニに比べるとハダニに対する制御能力が若干優れることから、ハダニの発生を認めた場合やハダニの増殖が高まる春期に利用するのが適するのではないかと考えられる。
 今後は、ミヤコカブリダニはアザミウマを食べるという特性を持つ点にも着目し、ミヤコカブリダニの特性を活用をはかり、さらに安定したイチゴ害虫のIPM体系を確立することが望まれる。

(九州沖縄農業研究センター)

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