1.はじめに
IPM(総合的有害動植物管理)の中で、物理的防除は重要な技術として位置づけられている。その一つに「有色粘着板や粘着ロール」による誘殺技術がある1,2,3,4,5)。
昔は、「蠅取り紙」として日本中に溢れていたこの捕殺技術も、化学農薬の台頭とともに姿を消していた。しかし、近年問題になっているトマト黄化葉巻病ウイルスを媒介するシルバーリーフコナジラミは、化学農薬のみで防除することは難しく、この有色粘着板による誘殺技術は有望な手法として見直されている8)。そこで、本稿では有色粘着ロール「ホリバーロール」の使用方法について、現場での事例をもとに記した。
2.色に誘引される害虫
黄色に誘引される害虫として、オンシツコナジラミやシルバーリーフコナジラミなどのコナジラミ類1)、スリップス類7)、アブラムシ類、及びマメハモグリバエ類などが代表的である。その他、チャノミドリヒメヨコバイ、カキノヒメヨコバイ6)などのヨコバイ類、及びキノコバエ類などが挙げられる。また、青色に誘引される害虫は主にスリップス類である7)が、イチモンジセセリも顕著に誘引される。
ホリバーロールには「黄色と青色」がある。ホリバーは小さな害虫の発生消長を調べるための粘着板である。試験研究機関や農業改良普及センターでは、害虫や寄生蜂の発生消長、あるいは殺虫剤の効果を明らかにするために使用している。一方、ホリバーロールは農家が微小な害虫の誘殺を行うために用いる粘着テープである。
図1 黄色粘着ロールによるコナジラミ類の侵入抑制効果(杖田) (2002年、岐阜)
3.ホリバーロールの使用方法
(1)ハウス壁面に沿って張る(コナジラミ類、スリップス類、アブラムシ類、ハモグリバエ類等)
最も誘殺効果が高い方法である(図1)。施設の外部壁面から30~50cm程度離して張る方法で、8~10月の多発生時期には大量のコナジラミやアブラムシ類が誘殺できる(写真1)。設置する高さはコナジラミが30~150cm、ハモグリバエ類が50cm、及びスリップス類が0~30cmとする。ホリバーロールを張るには支柱が必要である。通常、直管パイプが安価で扱いやすい。1.5~2.0m間隔に支柱を立てて貼り付け、パッカーで止める。間隔を広げ過ぎると巻いてしまう。このような場合、支柱と支柱の中間点に下から割り箸を挟むとよい(写真2)。コナジラミはホリバーロールの外面よりも壁面を向いた内面に多く誘殺される。
野外における粘着ロールの効果持続期間は通常2ヶ月位である。しかし、春の黄砂の時期、及び火山灰土で風が強い地帯では短くなる。また、直接強い雨風が吹き付けても糊が洗われてしまうことがある。ロールの粘着糊が一部剥がれた場合は、金竜スプレーなどで補完するか、または二重張りとする。
(2)ハウス出入り口に張る(コナジラミ類、スリップス類、ハモグリバエ類等)
ハウスの入口や僅かな開口部でもホリバーロールを張り、侵入しようとするコナジラミ、スリップス類を捕殺する(写真3)。扉や柱にそのまま貼る方法。楯枠を作成して張りつけ、侵入しそうなところに移動させて捕殺する方法など汎用性は高い。扉に張る場合、地際から30cm間隔で3段くらいに分けて張るのも誘殺効率がよい。
(3)天井に張る(アブラムシ類、コナジラミ類等)
ハウスの天窓に張り、窓から入った害虫を捕殺する。天窓に直に張ってもよい(写真4)。捕殺数は少ないが、侵入をさせないためには不可欠な方法である。
(4)ハウスの中に張る(微小害虫)
作物の株の直上に張り、天窓から侵入または株下から飛翔するコナジラミなどの害虫を誘殺する。ホリバーロールの位置が作物から離れていると、下部にだけ誘殺される。また、株条間に張り、株と株の間を移動する害虫を捕殺する方法もある(写真5)。この方法は生長点から30cm下を目安に張る。条間に張る場合、幅30cmでは広すぎるため15cmものを使用するとよい。イチゴの高設ベンチ栽培では、ロールを張るところが限られるため脚にしている直管に張る。意外に捕殺量が多いのに驚く。ハウスに中に張った場合は、長期間粘着力が維持される
。
▲写真1 施設の周囲に張ったホリバーロール(田口)
▲写真2 支柱間の中間点に割り箸を挟む(筒井)
▲写真3 入り口に張った黄色ホリバーロール(田口)
▲写真4 天窓に張った黄色ホリバーロール(勝山)
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写真5 株条間に張った黄色ホリバーロール(田口)
4.その他
その他、風のない虫の通り道などに張る方法がある。また、通常、害虫はハウスの外部よりも内部の方が捕殺しやすいと考えがちである。しかし、ハウス内に侵入した害虫は餌となる作物上で生活するため、補足率はやや低下する。ハウス内に入る前に捕殺し、侵入した個体は、天敵など他の資材を利用する方法が合理的である。
有色粘着ロールはよいことばかりではない。アフィパール(コレマンアブラバチ)、ハモグリコマユバチのような一部の天敵昆虫も誘殺されてしまうので、併用は避ける。さらに、粘着力がなくなる場合として虫が付着し過ぎた場合もある。粘着力がないと、害虫を集めてしまうことになるので、早めに撤去する。
最後に、貴重な資料及び情報を提供していただいた岐阜県農業技術研究所 勝山直樹氏に謝意を表する。
(アリスタライフサイエンス(株))
参考文献
1)中沢・林(1975),植物防疫 29,215-222.
2)北方・吉田(1982),植物防疫 36,478-481.
3)關谷・船戸(1994),関東病虫研報 41,285-287.
4)土屋・増井ら(1995),応動昆39,313-319.
5)島田(1998),関東病虫研報 45, 221-224.
6)田口・矢野ら(1998),関西病虫研報40, 131-132.
7)根本・鳥居(2001),埼玉農総研報(1), 1-4.
8)杖田・田口ら(2002),関西病虫研報 44,55-56.
9)松本・藤本(2002),四国植防,37, 37-42. |