1.はじめに
チャの新芽を加害するチャノミドリヒメヨコバイ(以下、ヨコバイ)とチャノキイロアザミウマ(以下、アザミウマ)は、夏場の二番茶・三番茶の品質・収量に大きな影響を与えるため、生産者にとっては防除が必要な害虫となっている。また、これら2種の害虫には、カンザワハダニに対するケナガカブリダニのような強力な土着天敵が見あたらず、殺虫剤による化学的防除が実効性のある唯一の防除手段となっている。
ところで、ヨコバイとアザミウマは同時期に新芽を吸汁加害することから2種の同時防除が慣行となっており、2種に登録のある薬剤はネオニコチノイド系を初めその種類は非常に多い。そのため、現場では薬剤の選択にあたって迷うことが多く、また、近年ネオニコチノイド系に対するアザミウマの薬剤感受性の低下が懸念され始め、各種薬剤の2種害虫に対する防除効果に関する最新の情報が求められている。
そこで、ヨコバイとアザミウマに対する各種薬剤の防除効果を比較するとともに、オルトラン水和剤の耐雨性についても若干の試験を実施したので、その成果を紹介する。
2.試験方法
静岡県茶業試験場内チャ園の三番茶芽において、2004年7月~8月に実施した。試験は、日本植物防疫協会・新農薬実用化試験のマニュアルに準じて実施し、別表の薬剤を各々約200㍑/10aを三番茶芽の萌芽~開葉期(7月14日)に散布した。薬剤の散布前、散布2、7および14日後には、ヨコバイとアザミウマの密度を粘着板を用いた叩き落とし法で調査し、あわせて摘採期には新芽を枠摘みにして被害芽率を調べた。
また、オルトラン水和剤については、通常散布区に加えて散布2時間後(目視で散布液が乾いた直後の状態)に降雨量5㎜相当の水を摘採面上部から散水した区を設け、散布後の降雨の影響を検討した。なお、今回の試験では調査期間中に自然降雨はまったくなかった。
▲チャノミドリヒメヨコバイ:(左から)幼虫・成虫・新芽の被害
(新葉の枯死は、ヨコバイの吸汁痕から感染した赤葉枯病菌による)
供試薬剤(成分%) |
希釈倍率
(倍) |
防除率(%) |
被害
防止率
(%) |
成虫 |
幼虫 |
合計 |
チアクロプリド水和剤(30) |
2,000 |
75.5 |
53.1 |
77.0 |
53.1 |
アセタミプリド液剤(18) |
2,000 |
4.8 |
58.3 |
30.6 |
38.8 |
チアメトキサム+ルフェヌロン水和剤(10+5) |
2,000 |
24.8 |
53.1 |
41.4 |
70.5 |
ジノテフラン水溶剤(20) |
2,000 |
44.1 |
68.8 |
58.4 |
39.4 |
クロチアニジン水溶剤(16) |
2,000 |
59.2 |
96.1 |
78.5 |
83.1 |
トルフェンピラド水和剤(15) |
1,000 |
73.2 |
100.0 |
83.3 |
98.8 |
イミダクロプリド水和剤(50) |
5,000 |
87.8 |
100.0 |
92.7 |
35.1 |
オルトラン水和剤(50) |
1,000 |
71.4 |
100.0 |
85.4 |
98.9 |
オルトラン水和剤(50)+散水処理 |
1,000 |
92.5 |
100.0 |
96.2 |
93.1 |
散水処理のみ |
|
0.6 |
72.7 |
29.8 |
3.6 |
(注) |
1. |
防除率(%)=(1-Cb・Ta/Tb・Ca)×100 ただし、Cb:無処理区散布前密度、Tb:処理区散布前密度、Ca:無処理区散布2、7日後密度の合計、Ta:処理区散布2、7日後の密度の合計 |
|
2. |
被害防止率(%)=(1-T/C)×100 ただし、C:無処理区の被害芽率、T:処理区の被害芽率 |
▲第1表 チャノミドリヒメヨコバイに対する各種薬剤の防除効果と被害抑制効果
3.結果と考察
(1)各種薬剤の新芽害虫2種に対する防除効果
第1表にヨコバイに対する各種薬剤の防除効果と被害抑制効果を、第1図にヨコバイの補正密度指数の推移を、第2図にアザミウマの被害防止率を示した。
ヨコバイに対する各種薬剤の散布7日後までの防除率は96.2~30.6%(散水処理のみは除く)で、剤によって大きな差がみられた。防除率が80%以上の薬剤は、オルトラン(アセフェート)、イミダクロプリド、トルフェンピラドであり、オルトランは散水処理を加えた区の防除率も非常に高かった。ネオニコチノイド系薬剤の中では、イミダクロプリドが最も高く、アセタミプリドが最も低かった。補正密度指数の推移では、散布14日後においてもオルトラン、イミダクロプリド、トルフェンピラドは他剤より低く推移し、これらの薬剤は残効の長いことが示唆された。一方、半分以上の剤で14日後には密度が回復しており、これらの剤では2週間以上の残効は期待できないと思われた。
被害防止率では、オルトラン、トルフェンピラド、クロチアニジンが80%以上を示し、防除率では他剤より高かったイミダクロプリドは低かった。なお、ヨコバイの被害は集中分布しやすいことが観察されており、防除率が高いにもかかわらず被害抑制効果は低い剤がみられた理由として、被害の分布にばらつきがあったことも影響していると考えられる。
次に、アザミウマに対する各種薬剤の散布7日後までの防除率は剤によって差がみられた。防除率が70%以上の薬剤は、トルフェンピラド、イミダクロプリドであった。なお、ネオニコチノイド系薬剤の中ではイミダクロプリドが最も高く、ジノテフランが最も低かった。14日後の補正密度指数についても、イミダクロプリド、トルフェンピラドは他剤よりは低く、これらの剤の残効期間は比較的長かった。
しかし、いずれの剤でも、散布7日後には密度が回復しており、5剤については散布14日後には無処理区よりも密度は高まった。この理由ははっきりしないが、無処理区では徐々に加害が進んで芽の生理状態が悪化し虫の増殖に適さなくなったためと、クモなどの天敵類が薬剤散布により排除されたことによる一時的なリサージェンスが起こったことが考えられる。
一方、被害防止率では剤による差はあまりなかったが、防止率80%を越える剤はなく、全般に効力不足が懸念された。なお、有機リン剤のオルトランについては、防除率は他のネオニコチノイド系剤に比べて低いものの、被害防止率には大きな差がみられなかったことから、殺虫効果は低いが忌避作用などの被害抑制効果があることが示唆された。
(2)オルトランの防除効果に及ぼす降雨の影響
オルトラン散布後の降雨を想定した散水処理を行なった区では、ヨコバイではむしろ対照区(散水なし)より防除効果が優り、アザミウマについてもやや優った。これは、散水処理のみでも若干の防除効果があったことから、芽に寄生していた虫が散水によって洗い流されたことが考えられた。一方、被害防止率では対照区に比べると若干の低下が認められ、わずかではあるが散水処理の影響があったことが示唆された。これは、散水によって新芽に付着した薬剤が流出して残留量が減少し、新芽の成長に伴う薬剤の効果低減がより顕著に現れたためと推察される。とはいえ、今回の試験では防除効果と被害抑制効果に及ぼす散水の影響は大きくはなく、散布された薬剤が完全に乾いていれば、極端な降雨以外は実用上問題はないと考えられる。
以上より、ヨコバイ、アザミウマに対する防除効果と被害抑制効果は剤によってばらつきがみられたが、いずれの剤も現状では新芽害虫の防除薬剤として有効な剤と考えられる。しかし、ヨコバイとアザミウマを比較すると、アザミウマでは全般に防除効果の低い剤が多く、2週間以上にわたって密度を低密度に抑制できる剤は無かった。オルトランについては、ヨコバイに対する防除効果と被害抑制効果は非常に高く、アザミウマに対しては防除効果は高くないものの被害抑制効果は他剤同様に認められた。
▲第1図 薬剤散布後のチャノミドリヒメヨコバイの密度推移
▲第2図 チャノキイロアザミウマにおける被害防止率
▲チャノキイロアザミウマ:(左から)成虫・幼虫・新芽の被害
(葉脈に沿ってケロイド状の傷ができ、新芽が萎縮して褐変する)
4.おわりに
チャ栽培では、近年、減農薬あるいは有機栽培など、化学薬剤の使用を制限したり排除したりする技術の開発が注目されている。チャ害虫では、土着天敵の保護活用により密度抑制が期待できる害虫(たとえばカンザワハダニ)や、BT剤や性フェロモン剤など生物防除資材が利用できる種(ハマキムシ類)もあるが、新芽害虫として最も重要なヨコバイとアザミウマについては、生物的防除法や耕種的防除法が実用化していない。将来的にはこれら2種についても化学薬剤に代わる防除技術を開発する必要があるが、現状では化学薬剤をいかに効率的に使用していくかが重要である。
昨今、これら2種害虫に対してはネオニコチノイド系剤が主流となっているが、アザミウマについてはネオニコチノイド剤に対する感受性の低下が確認された(久保田、未発表)。ヨコバイについても、ブプロフェジン剤やフルフェノクスロン剤に対する感受性の低下はすでに顕在化しており、ネオニコチノイドについても今後、感受性が低下する懸念はある。
このことから、別系統の有機リン剤であるオルトランは、現在広く使用されているネオニコチノイド系剤に対する抵抗性発達を回避するためにも、ローテーション散布の体系の中に是非組み入れておきたい剤といえよう。
(静岡県茶業試験場)
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