施設トマト栽培の総合防除技術
農薬ガイドNo.109/A(2005.3.28) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:田口 義広
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1.はじめに

 IPM(総合的有害動植物管理)という概念が提唱されてきたが、各地で進めている総合防除体系は、環境負荷軽減および省力を目標にしたICM(総合的作物管理)に近いものになっている。これらの防除体系は、まだ遠いところのものと考えている人の方が多いようである。
 しかし、生物農薬の登録数の増加、細糸防虫網や黄色蛍光灯、紫外線除去フィルムなど物理的防除法の開発、および複数の病害に対する抵抗性品種の創出など、技術は数年前とは比較にならないほど進んできた。これを加速させているのは、近年の環境保護の考え方の浸透であり、安全・安心志向であろう。
 一方、外国からマメハモグリバエ、トマトハモグリバエ、およびシルバーリーフコナジラミ等の侵入害虫や黄化葉巻病、黄化えそ病、褐色輪紋病、および萎凋病(J3)などの新たなトマト病害の発生も絶えることがない。また、品種の変遷に伴い、葉かび病菌の新レースが確認され抵抗性品種の利用に赤信号が出ている。
 このような状況を考慮しながらトマト病害虫の総合防除技術について記した。

2.トマトに発生する病害虫

 トマトに発生する病害虫は多い。栽培上で問題となっている病害は青枯病、かいよう病、疫病、萎凋病、灰色かび病および葉かび病などであり、害虫はコナジラミ類(黄化葉巻病含む)、ハモグリバエ類、スリップス類およびトマトサビダニなどである。しかし、実際にトマトに発生が確認されている種類数は、病害が60種類余、および害虫が100種類余である(第1表)。これらの病害虫すべてが、いつでもどこでも発生するわけではない。
 しかし、多くの病害虫は栽培管理方法や気象条件、地理的条件のほか、化学農薬の使用によって長期的にも短期的にも発生が抑制されていると考える必要がある。すなわち、予防的に処理される化学農薬や各種作業による「高い防除圧」で発生が抑制されている。総合防除を行なうには、これらの防除圧と同程度の農薬以外のポジティブな対策が求められる。


▲トマトハウス

病害(日本植物病名目録より引用し加えた)
ウイルス病
条斑病・モザイク病・黄化えそ病・黄化葉巻病・葉脈透化病・ウイルス病・萎黄病・黄斑モザイク病
細菌病
青枯病・腐敗細菌病・葉こぶ病・斑点細菌病・斑葉細菌病・かいよう病・黒斑細菌病・茎えそ細菌病・軟腐病・幼果黒変症状
糸状菌病
茎枯病・バラ色かび病・疫病・灰色疫病・褐色腐敗病・円紋病・葉腐病・葉かび病・斑点病・灰色かび病・変形菌病・萎凋病・環紋葉枯病・褐斑病・褐色根腐病・黒斑病・紅色根腐病・茎腐病・実腐病・苗立枯病・根腐疫病・半身萎凋病・菌核病・根腐萎凋病・輪紋病・褐色輪紋病・輪状斑点病・白星病・白絹病・白かび病・小粒菌核病・すすかび病・炭疽病・黒点根腐病・うどんこ病(2種類)・綿疫病・線虫(14spp.)
生理障害
日焼病・裂果病・しり腐病・条腐病
害虫(農林有害動物・昆虫名鑑などから引用し加えた)
アザミウマ類
イネクダ・シナクダ・ダイズウスイロ・ネギ・ミナミキイロ・ミカンキイロ・ヒラズハナ
アブラムシ類
オカボノ・ジャガイモヒゲナガ・チューリップヒゲナガ・ニワトコヒゲナガ・モモアカ・ワタ
カメムシ類
アオクサ・ウスミドリカスミ・コアオカスミ・ナスカスミ・タバコカスミ・チャバネアオ・ホオズキ・ミナミアオ
コナジラミ類
オンシツ・シルバーリーフ
ダニ類
アシノワ・カンザワ・イシイ・ナミハダニ・チャノヒメハダニ・ケナガコナダニ・トマトサビダニ
トビムシ類
キボシマル・キマルトビムシ・フォルソムシロ
ハムシ類
ウリハムシモドキ・キスジトビ・ナスノミハムシ
ハエ類
ウリミバエ・ナスハモグリ・マメハモグリ・トマトハモグリ
マイマイ類
アフリカ・ウスカワ
コメツキ類
マルクビクシ・オオカバイロ
テントウムシ類
オオニジュウヤホシ・ニジュウヤホシ
鱗翅目
アカエグリバ・アカキリバ・アケビコノハガ・アシブトクチバ・オオエグリバ・シロモンヤガ・ジャガイモガ・タバコガ・オオタバコガ・タマナヤガ・カブラヤガ・コウモリガ・ツキワクチバ・ナスノメイガ・ヒメアケビコノハ・ヒメエグリバ・ムクゲコノハ・ムラサキアシブトクチバ・ヨトウムシ類(ヨトウガ・ハスモン・シロシタ・ノコメセダカ)等
鳥類
オナガ・アトリ・キジ・シロガシラ・スズメ・ヒヨドリ・メジロ
ほ乳類
ヌートリア・ハクビシン
その他
オカダンゴムシ・トビイロシワアリ・ヤサイゾウムシ・ヒシバッタ・ナスノミドリヒメヨコバイ
▲第1表 トマトに発生する病害虫の種類

3.組み合わせるべき防除技術

 化学農薬の効果は、他の防除法に比べ卓越しているため、それが「当たり前のこと」になっている。しかし、総合防除では環境に配慮した技術の選択が求められるため、環境負荷の高い技術は排除される。上述した防除圧を確保するには確実な代替技術が必要である。
 今日まで、多くの研究者、現場技術者および企業の協力により、多くの優れた代替技術が生み出されている。トマト栽培における主要な病害虫と防除技術との関係を第2表に示した。この表から核となる技術が何か、あるいは一つの技術で複数の病害虫に対処できることがわかる。

(1)回避技術

 これらの中で害虫の侵入に対して防虫網はもっとも優れた方法である。紫外線除去フィルムと黄色蛍光灯は特定の害虫を寄せ付けない方法である。病害対策としては、適正な温度・湿度管理が回避技術に当たる。これらの回避技術は、病害虫の発生後には大きな効果を発揮することができない。

(2)捕獲技術

 ホリバーやホリバーロールは害虫が好む色に誘引する捕獲技術であり、回避技術に比較しポジティブな方法である。粘着ロールは使用方法を工夫すると、施設内への害虫の侵入抑制効果が著しく高い(第1図)。しかし、すべての害虫が誘殺できるはずもなく、本法のみでは防除できないため、組み合わせ技術の一つとして利用する。また、ホリバーをいろいろな所に吊り下げ、害虫の癖を探索するのも結構楽しいものである。

(3)保護・増加抑制技術

 除草、バンカープラントの導入などの植生管理技術は、害虫の住処を作らないという意味で総合防除には欠かせない方法である。特に、除草によって害虫を圃場に追い込むこともあるので、除草時期には細心の注意が求められる。
 天敵昆虫や天敵微生物は、上記の防除法よりさらに積極的な防除技術である。
 コナジラミ類、アブラムシ類およびスリップス類などの重要な害虫には複数の生物農薬が登録されている。微生物農薬の効果は、競合、抑制、および抵抗性誘導などの作用機作によるもので、化学農薬とは異質の効果を発現する。このため作用を理解した上で「使いこなす」という感覚が求められる。
 慣行法のように「散布」だけでは潜在能力を活かしきれない。さらに、微生物農薬は特異性が高いと考えられがちだった。しかし、ボトキラー水和剤(Bacillus subtilis)のように複数の病原菌に抑制作用を発現する拮抗微生物剤も登場してきた。

(4)化学農薬

 生物農薬の登録がなく代替技術もない病害虫に対しては、化学農薬の出番である。環境負荷が小さく、天敵に影響のない農薬の選択が求められることになる。

対象病害虫 防除法 具体的技術
コナジラミ類
天敵昆虫
エンストリップ、エルカード(モニタリング必須)
天敵微生物
ボタニガードES、その他の微生物剤
物理的・耕種的防除
ホリバー、ホリバーロール、防虫網、シルバーマルチ、摘葉処理、除草、収穫後施設蒸し込み、周辺環境整備など
農薬
定植時粒剤処理、チェス(水)、アプロード(水)、オレート(液)、デンプン剤
その他
シルバーリーフによる黄化葉巻病(TYLCV)の媒介
ハモグリバエ類
(マメハモグリバエ・ナスハモグリバエ)
天敵昆虫
マイネックス、マイネックス91(モニタリング必要)
物理的・耕種的防除
ホリバー、ホリバーロール、防虫網、除草、ポリマルチ、収穫後施設蒸し込み 、残さ摘葉茎の処理など
農薬
IGR剤、影響の強い剤の使用制限
アブラムシ類
天敵昆虫
アフィパール、アフィデント(ヒゲナガアブラムシ)、その他
天敵微生物
バータレック水和剤
物理的・耕種的防除
ホリバー、ホリバーロール、防虫網、除草、シルバーマルチなど
農薬
その他
定植時粒剤処理、チェス(水)、オレート(液)
CMVの媒介
スリップス類
天敵微生物
ボタニガードES
物理的・耕種的防除
ホリバー、ホリバーロール、防虫網、ポリマルチ、除草
収穫後施設蒸し込み
農薬
定植時粒剤処理、マッチ(乳)
その他
ヒラズとミカンキイロアザミウマによる黄化えそ病(TSWV)媒介
ハスモンヨトウ
天敵微生物
BT剤、フェロモン大量誘殺
物理的防除
防虫網、ライトトラップ、黄色蛍光灯
農薬
マッチ(乳)、カスケード、プレオなど
オオタバコガ
天敵微生物他
BT剤、フェロモン発生消長把握
物理的防除
防虫網、黄色蛍光灯
農薬
マッチ、カスケード、アタブロン、ノーモルト、プレオなど
トマトサビダニ
農薬
イオウフロアブル、マイトコーネ、アプロード、オサダンなど
灰色かび病
拮抗微生物
TMボトキラー水和剤(散布、ダクト内投入、常温煙霧)
耕種的防除
摘葉、花弁除去、摘果、敷料、換気、少灌水など
農薬
耐性菌を考慮した体系使用
ネコブセンチュウ
天敵微生物
パストリア
青枯病・根腐萎凋病、軟腐病、土壌病害・害虫
拮抗微生物
セル苗元気、バイオキーパー
生態的防除
物理的防除
抵抗性品種、抵抗性台木
還元土壌消毒、太陽熱消毒処理、熱水処理、乾熱種子消毒など
▲第2表 施設トマト栽培における病害虫の主要な総合防除技術

 


▲第1図 黄色粘着ロールによる施設内へのコナジラミ類の侵入抑制効果
(2001年、岐阜杖田ら)
グラフは施設内3箇所に設置したホリバーに誘殺されたコナジラミ数の推移を示す。
施設はダッチライト型温室、ロールは施設外側壁面の高さ1mに張った。

4.種子と苗にも配慮

 現場では、上記のような複数の技術を合理的に組み合わせたからといって総合防除ができるわけではない。地域特有の気象条件や病害虫の発生種、あるいは突発的な病害虫の多発生が原因で計画を断念する事がある。この原因には技術や知識および経験不足という面もあるが、中には回避不可能という場合もある。
 たとえば、種子伝染性病害の発生や苗の生産を他者に依頼している場合、黄化葉巻病、黄化えそ病、かいよう病、スリップス類、コナジラミ類およびハモグリバエ類など多くの病害虫が苗とともにやってくることがある。
 近年、花卉栽培で薬剤抵抗性の発達したシルバーリーフコナジラミが、花の流通を通じて全国に広がった例も指摘され、農薬が効かないという悲劇を生んでいる。このような病害虫の発生様態を考えると、総合防除体系では本来何をすべきかが明確になってくる。

5.ポジティブに生物農薬

 上記のような対策を施した上で、生物農薬の導入を図ることが、総合防除への近道である。下記に各々の病害虫に対する生物農薬使用上の要点を示した。

(1)コナジラミ類

 トマト苗の定植直後から黄色ホリバーによる発生消長を調べ、1頭でも誘殺されたらエンストリップを4週連続で放飼する。最初から密度が高い場合は、殺虫剤を散布し一度密度を下げてから放飼する。春期と秋期はエンストリップが、7~9月にはエルカードの効果が高い。また、エンストリップは気温が17℃を下回ると効果が出にくい。ダッチライト型温室で最低気温が17℃に保たれている場合は、周年エンストリップが利用できる。エルカードは23℃以下では効果が不安定になる。
 天敵に影響のない農薬やボタニガードES、マイコタールなどの天敵微生物剤を組み合わせてもよい。ボタニガードESはミニ系には薬害を生ずることがあるので確認してから使用する。多種ある黄色粘着板の中には、エンストリップを誘殺してしまう商品もあるので選択して使用する。5月や9月には施設内が暑くなり、側窓を開放すると一時的にホリバーに大量にコナジラミ類が誘殺されることがある。このような場合は、1週間以内にエンストリップに影響のない農薬を散布する。ホリバーによる調査を継続し、低密度の発生で抑えられていれば、毎月1~2回、追加放飼していく。

(2)ハモグリバエ類

 ナスハモグリバエ、マメハモグリバエおよびトマトハモグリバエの3種類が問題となる。前2者はマイネックスの効果が著しく高い(第2図)。しかし、後者に対しては密度抑制効果はあるが、前2者ほどの効果は示さない。前2者は、発生を確認したら1週間ごとに2~3回、マイネックスまたはマイネックス91を放飼すればよい。また、後者は、育苗期から発生に注意し、IGR剤などで防除した後定植する。天敵放飼後1~2月を経過し、この間にも影響のある殺虫剤を使用しなければハモグリミドリヒメコバチなど在来天敵の寄生が認められることもある。

(3)スリップス類

 紫外線カットフィルムを張れば被害は著しく少なくなる。定植前の雑草処理も効果が高い。施設内ではボタニガードESを散布する。卵に対する効果がないので2回以上の散布を基本とする。コナジラミ類など、他の害虫にも効果がある。

(4)アブラムシ類

 モモアカアブラムシやワタアブラムシにはアフィパールを、ヒゲナガアブラムシ類にはアフィデントを用いる。アフィパールはバンカープラントを併用すれば安定して高い効果が得られる。これらは発生初期に放飼することがポイントである。多発生したときは天敵に影響しない化学農薬を散布する。

(5)灰色かび病

 湿度と気温によって発病が左右される。花弁が最初に発病するので、時期になったら発病がなくてもTMボトキラー水和剤を散布する。本剤のダクト内投入散布は暖房期間でなくとも、送風のみで散布を行なうと発生を少なくできる。本法は毎日散布であるが、著しく省力的な方法である。ダクトの配置を見直し、均一に散布できるようにすることが、この「ワンタッチで防除」のポイントである。

(6)青枯病・根腐萎凋病

 育苗培土としてセル苗元気を用いると、両病害の発生が軽減できる。連作を余儀なくされている地域では、還元土壌消毒などと併用すると被害を最小限に抑えることができる。


▲第2図 マメハモグリバエに対するマイネックスの防除効果(1998年、田口 岐阜)
半促成トマト栽培 寄生葉率14および16%で若齢幼虫期に天敵を4回放飼した。
▼↓は放飼日。

6.生物農薬がない病害虫の対策

(1)トマトサビダニ

 殺虫剤の散布を少なくすると必ずといっていいほど発生する。寄生後症状が現れるまでに1ヵ月程度かかるため、手遅れになりがちで被害が著しい。発見しだい、被害株およびその周辺の株に対し化学農薬を散布する。土壌中で越冬すると思われるため、収穫後に施設内の消毒が必要である。現在のところトマトサビダニが発生した場合、化学農薬に頼る以外方法がない。

(2)葉かび病

 本病をはじめとし、育苗中の病害は確実に防除する。トマトは定植後から5段目までは樹勢が強いが、6段目が開花する頃から低下してくる。この時期の防除は発病がなくても行なう。発病を認めたら直ちに農薬を散布し、摘葉管理も併せて行なう。

(3)その他

 黄化葉巻病は防虫網被覆など事前対策を行ない、黄色ホリバーにシルバーリーフコナジラミが誘殺されたら直ちに防除を行なう。発病株は抜き取り土中に埋めるか、ビニール袋に入れ感染が拡大しないようにする。また、地域ぐるみの防除対策や除草などが求められる。
 現場では、農薬ではない様々な忌避物質が用いられることもある。これらを天敵利用下で使用すると、天敵を圃場から追い出してしまうこともある。素性の明らかでないものは使用しないほうが無難である。

7.今後の課題

 このようにトマト栽培では生物農薬をはじめ多くの防除方法が出揃い、総合防除を行なう農業経営者が増えてきた。環境保全という目的を達成するとともに、労力が軽減できるというメリットも認識されている。今後、さらに周辺環境との関係解明、葉かび病やトマトハモグリバエに対する新たな生物農薬の開発など、残された課題を解決し、安定した総合防除体系を組み立てていく必要がある。また、黄化葉巻病の発生は害虫の侵入対策の重要性を示しており、本病の対策確立は将来的に総合防除の推進につながるものと考えている。
 総合防除を実行しようとすると一時的に経済的な負担が増加するが、この対策は現在のところ生産物価格に反映されることを望むしかない。一方、このような生物農薬を用いて総合防除を行なう生産者の多くは、購入してくれる消費者を確保している。高度な防除技術を駆使して生産したトマトは、確実に意識の高い消費者の元に届くようになってきた。

(アリスタライフサイエンス(株))

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