野菜類の灰色かび病・うどんこ病予防に ボトキラー水和剤
農薬ガイドNo.107/B(2004.2.28) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:川根 太
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 ボトキラー水和剤は、自然界から分離した細菌(納豆菌の仲間)バチルス ズブチリス芽胞を有効成分とする、トマト、なす、いちごなど野菜類の灰色かび病・うどんこ病、ぶどうの灰色かび病およびシクラメンの灰色かび病の予防薬である。昨2003年10月、新たに「ダクト内投入」散布法が適用拡大され、ますます使いやすくなった。以下にボトキラー水和剤の特長と新たな散布法「ダクト内投入」について紹介する。

1.特 長

(1) 灰色かび病、うどんこ病の予防に高い効果
 ①ボトキラー水和剤をあらかじめ予防散布すると、有効成分であるバチルス ズブチリス芽胞が作物表面に付着した後、栽培環境条件下、増殖・定着(増えて住み着く)し(第1図)、病原菌よりも先に栄養源(餌)と生息の場所(棲み家)を占有し、持続的に病原菌の感染が抑制され病害の発生を予防する1),2),3)
 ②化学農薬と作用が異なるため、既存の化学農薬に対する耐性菌に対しても効果がある。また、ローテーションに組み入れて使用することにより化学農薬の耐性菌の発生を低下させることが可能である2),3)
(2) 使用回数に制限がない
 ①安全性が高く(普通物相当、魚毒性A類相当)使用回数に制限がない。また、マルハナバチ、ミツバチや天敵等に対して影響を与えない。
 ②化学合成農薬ではないため、減農薬栽培や新JAS法に定める有機農産物生産で使用しても使用回数にカウントされない。
(3) 扱いやすく多彩な使用方法が可能
 ①常温での保存が可能。
 ②多くの化学農薬との混用が可能(キャプタン、マンゼブ、TPN、スルフェン酸系、プロピネブおよびその混合剤とは混用せずに、日数を空けて使用する)。
 ③従来お使いいただいていた薬液散布、常温煙霧機での散布に加え、暖房機と送風ダクトを用いる全く新しい散布方法「ダクト内投入」が登録となった(第1表)。

▲第1図 ボトキラー水和剤の作物表面での定着例
(写真左:ボトキラーの付着、中:定着・増殖、右:占有)

2003年(平成15年)10月現在
作物名 適用病害虫名 希釈倍数 10アール当り
使用液量
使用時期 本剤の
使用回数*
使用
方法
野菜類 灰色かび病 1,000倍 150~300L 発病前~
発病初期
散布
うどんこ病
ぶどう 灰色かび病 200~700L

作物名 適用病害虫名 使用量 10アール当り
使用液量
使用時期 本剤の
使用回数*
使用方法
野菜類 灰色かび病 300g/10a 6~10L 発病前~
発病初期
常温煙霧

作物名 適用病害虫名 10アール当り
使用液量
使用時期 本剤の
使用回数*
使用方法
野菜類 灰色かび病 10~15g/日 発病前~
発病初期
ダクト内投入
シクラメン
*使用回数は特に定めない
▲第1表 適用範囲と使用方法

2.「ダクト内投入」の解説

(1) 「ダクト内投入」とは
 ①ハウス内に設置された暖房機を利用し、水和剤散布1回分の薬剤量を1ヵ月の期間をかけて毎日少量ずつ(薬液散布の1/20~1/30量)、粉のままダクト内に投入し、送風によりハウス内全体に飛散・循環させる散布方法である。これは、ボトキラー水和剤の有効成分バチルス ズブチリス菌が作物表面で増殖・定着するという特性を生かしたボトキラー水和剤ならではの散布方法であり、全く新しい概念の病害予防方法である4),5)
 ②ダクト内に投入されたボトキラー水和剤は、夜間、暖房機の稼動に伴う送風により、ダクトを通じてハウス内全体に飛散・循環し、作物表面およびハウス内全体に付着する。
(2) 「ダクト内投入」の特長
 ①ボトキラー水和剤を毎日、飛散・循環させることにより、バチルス ズブチリス芽胞が灰色かび病菌より先に確実に作物の表面に定着し、連続的かつ継続的に作物表面の栄養源および生息の場所を占拠する。この結果、予防のタイミングを逃すことがなく安定した発病予防効果を発揮する(第2、3図)。
 ②水を全く使わない散布方法のため、薬剤散布時に問題となるハウス内の湿度上昇に伴う発病助長の危険性がない。また、水和剤散布時に気になる作物に対する汚れはほとんどない。
(3) 実施の手順
 ①開始にあたり
 暖房機が稼動し始めたら、灰色かび病が発生していなくても「ダクト内投入」を開始する。また、あらかじめ化学農薬を散布して、ハウス内の灰色かび病菌の密度を低下させておくと効果的である。
 日々生長する作物に合わせてバチルス ズブチリス菌を確実に作物に定着させるために、毎日実施することがポイントである。
 ②準備(投入口の設置)
 親ダクトの暖房機の取付け部位付近(暖房機から1~2mの範囲で、作業の邪魔にならない部分)に、ボトキラー水和剤の投入口を作製する(第4図)。投入口にはペットボトルを切断した上半分を使うと便利である(第5図)。
 投入口は、ハウスに設置されている全ての暖房機の親ダクトに作製する。
 ③実施
 ・実施するハウスの面積に応じ、1日当りの投入量(10~15g/10a)を決定する。
 ・ハウス内での作業終了後、暖房機が停止していることを確認する。
 ・投入する際は計量スプーンなどを用い、全ての投入口から1日分の所定量を分けて投入する。
 ・投入する前に暖房機の電源を切断した場合には、電源を忘れずに再投入する。
 ・翌朝、ハウス内に入る際には天窓を開けるなど、ハウス内を換気してから中に入る。
(4) 実施上の注意点
 ①「ダクト内投入」を継続して実施している期間は暖房機が稼動している時、ハウス内に入らない。
 ②暖房機の吸気口からは投入しない。
 ③温度ムラがあるハウスは、ボトキラー水和剤の飛散ムラにもつながるため、病害発生予防効果が十分に発揮されない場合があるので注意する。
 ④最低でも1ヵ月間は毎日欠かさず投入する。徐々に「病気の発生しにくいハウス」へと変わっていく。


▲第2図 トマト灰色かび病試験成績
(岐阜県植物防疫協会、2001年度日植防委託試験)
作 物:トマト(品種:ハウス桃太郎)
暖房機:ネポン社製NK-4020(11月:12℃、12~2月:10℃、3月以降:12℃)
処 理:ボトキラー「ダクト内投入」区:10g/10a/日 体系区:11/3(T)、12/1(M)、1/5(I)、2/2(F)、2/16(T)、3/9(TD)、3/16(S)、4/6(F)
調 査:3/24に発病果率を調査
病害発生:少発生
薬害など:薬害、汚れともに見られなかった
T:TPN、M:メパニピリム、I:イプロジオン、F:フルジオキソニル、TD:チオファネートメチル・ジエトフェンカルブ、S:スルフェン酸系


▲第3図 キュウリ灰色かび病試験成績
(岐阜県農業技術研究所、2001年度日植防委託試験)
作 物:キュウリ(品種:シャープ1、栽培:半促成型つる下げ栽培)
暖房機:竹沢温風器F-OH403型(最低気温:13℃)
処 理:ボトキラー「ダクト内投入」区:300g/10a・月、対照区:2/2、15、3/1、14
調 査:3/20に着果した全果実について発病の有無を調査
病害発生:中発生(無処理発病果率:8.8%)
薬害など:薬害、汚れともに見られなかった。


▲第4図 「ダクト内投入」投入口の作製位置


▲第5図 「ダクト内投入」投入口作製例

(出光興産株式会社 新規事業推進室アグリバイオ一課)

引用文献

1)川根 太(1999).アリスタ ライフサイエンス農薬ガイド91:17-21.
2)川根 太(2000).植物防疫54:342-345.
3)川根 太(2000).微生物農薬-環境保全型農業をめざして-.全国農村教育協会,東京,pp.136-146.
4)高橋尚之・田口義広(2001).日植病報68;81(講要).
5)田口義広・渡辺秀樹・川根 太・百町満朗(2003).日植病報69:107-116.

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