ミヤコカブリダニによる施設加温栽培ブドウのハダニ類防除
農薬ガイドNo.107/A(2004.2.28) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:佐野 敏広
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1.はじめに

 岡山県特産の施設栽培ブドウであるマスカット・オブ・アレキサンドリア(以下マスカット)では、カンザワハダニやナミハダニなどのハダニ類が恒常的に多発生し、栽培上の大きな障害となっている。ハダニ類は薬剤抵抗性が発達しやすいうえ、ブドウでは登録薬剤が少なく、さらに薬剤散布は果粒の汚れの問題があるなど、薬剤のみに頼った防除は限界にきている。そのため、現地の天敵に対する関心は非常に高い。
 ブドウのハダニ類に対する天敵としてチリカブリダニ製剤(商品名:スパイデックス)が施設栽培を対象に1999年に登録され(後に施設果樹類に拡大登録)、大阪府の極早期加温栽培のデラウエアではカンザワハダニに対し高い防除効果が認められている。
 しかし、岡山農試でこれまでチリカブリダニの放飼試験を繰り返し実施してきたが、デラウエアとは異なり、マスカットではチリカブリダニの定着率が著しく劣ることから防除効果が低く、普及に至っていないのが現状である。
 こうした中、昨2003年10月に果樹類のハダニ類を対象にミヤコカブリダニ製剤(商品名:スパイカル)が登録され、アリスタライフサイエンス株式会社から販売されることとなった。ミヤコカブリダニ(以下ミヤコ)は近年、果樹園を中心に全国的に分布を拡大し、ハダニ類の有力な土着天敵として注目されている。岡山県内のマスカット園でもハダニ類の主要な土着天敵として確認されており、チリカブリダニにかわる導入天敵として期待されている。
 ここでは、ミヤコ製剤「スパイカル」放飼によるマスカットのハダニ類に対する防除効果について、2002年の試験結果を中心に紹介する。


▲ハダニ類によるマスカットの被害

2.試験方法

 マスカットの作型は大きく3つに分類される(第1図)。無加温栽培では殺虫剤の使用頻度が高く導入困難と考えられたため、早期加温栽培と普通期加温栽培の加温2作型に限定し、放飼試験を実施した。
 試験は2002年3月~7月に主要産地の栽培者8名、計9圃場(早期加温3、普通期加温6)で行なった。放飼時期は、早期加温では3月上旬~4月上旬、普通期加温では4月中旬~5月下旬、放飼密度は5.1~12.2頭/㎡とし、1~2週間間隔で計4回放飼した。なお、ミヤコは増量剤とともに1ボトル当り約2,000頭入っており、これを小分けにしてティッシュペーパーに包み、施設内に均一になるよう亜主枝の分岐部等に設置する方法で放飼した(約100~200ヵ所/10a)。7~14日間隔で葉の表裏に生息するハダニ類とミヤコの虫数を数えた。さらに試験後、栽培者にミヤコ利用に関するアンケート調査を実施した。


▲第1図 マスカット・オブ・アレキサンドリアの作型


▲ミヤコカブリダニの放飼方法

3.試験結果

(1)正常花粉率の推移

 船穂町A圃場ではハダニ類が4月下旬から発生したが、ミヤコも同時に発生し、その後ハダニ類の密度が高まることはなく、5月下旬の収穫終了時まで低密度で推移した。ハダニ類の加害による葉および果実被害は認められず、殺ダニ剤の散布も不要であった。薬剤散布の影響で失敗した船穂町B圃場を除くと、早期加温でミヤコは良く定着し、ハダニ類に対し高い防除効果が認められた(第1表)。

地区 作型 加温開始
時期
収穫時期 ハダニ
発生種
放飼量
(/㎡)
放飼
回数
ハダニ類の
抑制効果
船穂町A 早期 12月上旬 5月上~下旬 ナミ、カンザワ 5.1頭 4
船穂町B 12月上旬 5月上~下旬 ナミ 7.1頭 4  
岡山市佐山 12月中旬 5月下~6月中旬 カンザワ 8.3頭 4
岡山市芳賀 普通期 2月上旬 7月下~8月中旬 カンザワ 6.1頭 4
御津町 1月中旬 7月上~下旬 ナミ 6.1頭 4
船穂町C 1月下旬 7月上~下旬 カンザワ 7.1頭 4 ×
岡山市横井上 1月下旬 7月上~下旬 カンザワ 7.9頭 4
船穂町D 1月下旬 7月上~下旬 ナミ 9.1頭 4
岡山市芳賀 2月上旬 7月下~8月中旬 カンザワ 12.2頭 4
▲第1表 ミヤコカブリダニ放飼によるハダニ類の抑制効果(まとめ)

(2)普通期加温

 普通期加温では放飼密度により防除効果は大きく異なった。放飼密度が高い2圃場(9.1頭、12.2頭/㎡)では防除効果が高く、収穫期までハダニ類を抑制したのに対し、他の4圃場では放飼後から6月上旬まではハダニ類を低密度に抑制したが、6月中旬以降、効果が低下する傾向がみられた(第1表)。

(3)アンケート調査

 アンケートの調査結果を第2表に示した。ミヤコを利用して良かった点として、ハダニ類の発生が少なくなり薬剤散布回数が減ったこと、逆に悪かった点では、ミヤコが微小で確認できず、効果に対する不安や薬剤散布へ切り替える判断の難しさをあげる栽培者が多かった。さらに、試験期間中、薬剤散布を大幅に制限したためかトビイロトラガやアザミウマ類、ハマキムシ類など、ハダニ類以外の害虫の発生が問題となった。その他の意見では、放飼方法の改善を求める意見が多かった。
 ミヤコに対する栽培者の評価はおおむね高く、8名のうち6名が継続利用を希望した。

○利用してよかった点
☆ハダニの発生が少なくなった 5
☆薬剤散布回数が減った 8
☆薬剤散布に比べ楽でよい 1
☆果実の汚れが少なくなった 1

○利用して悪かった点
☆微小で確認できない。働いているか不安 6
☆薬剤散布へ切り替えるタイミングが難しい 5
☆薬剤散布が制限されるため、他の病害虫の発生が問題となった
(トビイロトラガ、アザミウマ類、ハマキムシ類)
6
☆放飼方法を改善する必要がある。
(放飼箇所数(約100~200ヵ所/10a)が多すぎる。ティッシュは風に弱い、汚らしい、前回放飼分と区別が付かない)
3

○今後の利用予定
☆次は使わない 0
☆次も使いたい 6
☆未定 2
表中の数字は回答者数を示す(回答者8名)
▲第2表 ミヤコカブリダニ利用にかんするアンケート調査

4.考察

(1)作型別の防除効果

 両作型ともミヤコの定着は良かったものの、ハダニ類の防除効果は早期加温の方が高かった。普通期加温では6月以降、施設内の気温・湿度の変動により防除効果が低下する傾向がある。したがって、ミヤコを早めに定着させ、6月までにハダニ類の密度をできるだけ低く抑えておく必要があると考えられた。

(2)放飼時期・放飼密度

 放飼密度を5.1~12.2頭/㎡、放飼回数を4回と多めに設定したが、実用場面では経済性を考慮すると、多くとも6頭/㎡×3回以内に抑える必要がある。また、普通期加温では6月以降防除効果が低下するので放飼時期をさらに早めて再検討する必要がある。
 2003年に放飼開始時期を約1ヵ月早めて開花期頃とし、早期加温では2~3頭/㎡、普通期加温では3~6頭/㎡の密度で各3回放飼して再検討した。その結果、早期加温では2002年と同様、高い防除効果が確認され、普通期加温でも2002年に比べて防除効果が向上しており、おおむね良好な結果が得られた。

(3)放飼方法

 放飼方法(放飼箇所数、ティッシュ利用)に問題があり、改善が必要と考えられた。
 2003年に放飼箇所数を50~100ヵ所/10aと約半分に減らし、ティッシュから不織布製のお茶パックにかえて再検討した。その結果、放飼箇所数を半減したことによるミヤコの定着や防除効果への影響はみられなかった。お茶パックはティッシュに比べ扱いやすく、栽培者におおむね好評であった。

(4)ハダニ類以外の害虫対策

 薬剤散布を大幅に制限するとハダニ類以外の害虫が問題となる。ミヤコの各種薬剤に対する影響評価試験を実施し、影響の少ない防除薬剤を選出する必要がある。

(岡山県農業総合センター)


▲ミヤコカブリダニ雌成虫

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