昆虫病原糸状菌ボタニガードESによるコナジラミ類の防除
農薬ガイドNo.105/E(2003.5.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:増田 俊雄
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はじめに

 ボタニガードESは、昆虫類に感染して死亡させるカビの仲間(昆虫病原糸状菌という)ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を主成分とする乳剤タイプの微生物殺虫剤である。ボーベリア・バシアーナ菌は、昆虫病原糸状菌の中でも寄主範囲が広いことが知られており、本製剤に含まれる菌株は、特にコナジラミ類に対して強い病原力を持つのが特徴だが、アブラナ科作物の害虫であるコナガに対しても病原性を有する。この菌は、ほ乳類などには感染しない極めて安全性の高い糸状菌であり、化学合成農薬としてカウントされないため、有機栽培や減農薬栽培でも使用できる。ここでは、当研究所で実施したボタニガードESによる施設園芸の重要害虫、オンシツコナジラミの防除試験を紹介し、ボタニガードESの効果的な使い方について述べる。


1.トマトのオンシツコナジラミに対するボタニガードESの防除効果

 防除試験は、1998年と1999年の2回、宮城県農業・園芸総合研究所内のビニールハウスに5月下旬に定植したトマト(品種:桃太郎エイト)を用いて実施した。試験区は、ボタニガードES500倍液散布区、対照薬剤としてブプロフェジン水和剤1,000倍散布区、および無散布区を設けた。試験区はそれぞれ1区8株とし、3連制で行なった。ボタニガードESは、容器をよく振って十分に撹拌してから500倍に希釈し、1998年は7月8日、7月15日および7月22日の3回、1999年は7月10日、7月17日および7月24日の3回、肩掛け式噴霧器を用いて、約200㍑/10aを夕方(午後6時以降)に散布した。対照薬剤のブプロフェジン水和剤は、1998年は7月8日と7月15日の2回、1999年は7月10日の1回、散布した。調査は、ほぼ7日間隔で、1回目散布28日後まで、ヘッドルーペを用いて生存虫数を計数した。薬害は随時肉眼観察により行なった。なお、試験は梅雨期に実施したので、試験期間中は降雨日が多く気温も低めに推移したため、試験ハウス内の温湿度条件は菌の感染には比較的好適であったと考えられる。
 1998年の結果を第1図に、1999年の結果を第2図に示した。両年ともにボタニガードESの500倍液3回散布は、無処理に対して密度抑制効果が高く、対照薬剤のブプロフェジン水和剤に比較して優れた防除効果を示した。

▲オンシツコナジラミ防除試験


▲第1図 トマトのオンシツコナジラミに対するボタニガードESの防除効果(1998)


▲第2図 トマトのオンシツコナジラミに対するボタニガードESの防除効果(1999)

 紹介した二つの試験例では、ボタニガードESを3回散布したが、第1,2図が示すように1回目の散布によって、すでに防除効果が現れ始めている。一般に、ボーベリア・バシアーナの宿主昆虫への侵入には、湿度100%、温度25℃付近が最も好適であり、この条件を15時間以上維持することができれば、高い感染率が得られる。通常、防除効果を安定して得るためには、散布後に75%以上の湿度と15℃~30℃の温度条件を24時間程度保つことが要求される。極端な低湿度、低温あるいは高温条件にならなければ、1~2回散布でも十分な防除効果が期待できるものと考えられる。
 一方、本剤の散布によって、トマト葉裏の薬液が溜まったようなところを中心に、シミ状の褐色小斑点が生じる薬害の事例が発生した。この薬害は、葉表には明確な症状は現れず、実用上の問題はないと考えられるが、希釈倍数を間違えて高濃度で散布してしまったり、高温時に散布してしまったときには薬害発生が助長される可能性もあることから、十分に注意する必要がある。

▲葉表には明確な薬害症状は現れない。

2.キュウリのオンシツコナジラミに対するボタニガードESの防除効果

 防除試験は、宮城県農業・園芸総合研究所内の養液栽培鉄骨ハウス(最低温度10℃に設定)に、2000年10月中旬に定植したキュウリ(品種:シャープ1)を用いて実施した。試験区は、ボタニガードES500倍液散布区、対照薬剤としてアセタミプリド水溶剤2,000倍散布区、および無散布区を設けた。試験区はそれぞれ1区8株とし、2連制で行なった。11月16日、11月24日および11月30日の3回、肩掛け式噴霧器を用いて約200㍑/10aを夕方(午後4以降)に散布した。アセタミプリド水溶剤は11月16日の1回散布とした。調査は、各区4株のオンシツコナジラミの寄生が認められる葉(3~4葉)をマークし、ほぼ7日間隔で1回目散布21日後(12月6日)までヘッドルーペを用いて生存虫数と死亡虫数を計数した。
 無散布区の生存虫密度が増加傾向にある中で、ボタニガードESの3回散布は1回目散布7日後から防除効果が現れ始め、最終調査の12月6日まで高い密度抑制効果を示した。対照薬剤アセタミプリド水溶剤とほぼ同等の防除効果であった。
 ボタニガード散布区では、11月30日以降に本製剤による特徴的な病徴を示した死亡虫(体表面がピンク色に変色し、その後死体上から菌糸が発生して分生子が形成される)が多数出現し、本剤散布により高率で感染が起こったものと考えられる。本試験は、温度の日格差が大きく湿度もあまり高まらない条件、一般に昆虫病原糸状菌の感染にとっては、あまり好適でないと思われる条件下で実施されたが、得られた結果は対照薬剤と同等の良好なものであった。キュウリでは薬害の発生事例はない。

▲第3図 キュウリのオンシツコナジラミに対するボタニガードESの防除効果(2000)

3.効果的な使用方法

 以上の結果から、ボタニガードESの効果的な使用方法をまとめた。
(1)死亡するまでにやや時間がかかるので、コナジラミ類の発生初期から散布する。
(2)感染には温度と湿度が重要であり、感染好適条件をできるだけ長時間維持するために ハウスの開閉を行なったり乾燥が著しいときには通路かん水などで対応する。通常、ハウス内は夕方から翌朝までは高湿度条件になるので、晴天の時には散布は夕方に行なう。雨天や曇天の場合、極端な低温や高温時以外は散布時刻はこだわらなくてよい。ただし、暖房設備があるハウスでは、夜温が低下し暖房装置が作動すると湿度が下がるので、暖房の止まった時間帯に散布するなどの注意が必要である。
(3)ボタニガードESの主成分は昆虫病原糸状菌なので殺菌剤の影響を受けやすいため、できるだけ混用は避け、散布する場合には散布間隔を2~4日間程度開ける。ただし、銅剤、チオファネートメチル剤およびホセチル剤は混用しても影響がほとんどない。
(4)感染して死亡したコナジラミ類は、湿度が高い場合には体表面から白いかびが生え、他の健全虫への伝染源となり、残効性を保つためにも重要である。
(5)感染好適条件下で散布すれば1回の散布で十分な防除効果が期待できるが、高い効果を安定して引き出すには、複数回散布するのが望ましい。

(宮城県農業・園芸総合研究所)

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