「ハマキ天敵」によるチャのハマキムシ防除
農薬ガイドNo.105/B(2003.5.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:中村 孝久
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1.はじめに

 鹿児島県では平成5年度から消費者ニーズに対応した「クリーンな茶づくり」に取り組んでおり、この中で、病害虫防除については、「ハマキ天敵」の利用を基幹とした減農薬・総合防除体系を推進してきている。
 ハマキ天敵は天敵微生物の一種であるコカクモンハマキ顆粒病ウイルスとチャハマキ顆粒病ウイルスを混合調製したもので、チャノコカクモンハマキとチャハマキ(以下「ハマキムシ」という。)の防除に用いられている。その生産方法は、ハマキムシを大量増殖し、顆粒病ウイルスに罹病させた老熟幼虫を回収して摩砕し、蒸留水に懸濁・濾過するというものであり、1990年から92年にかけて低コスト防除体制整備事業により整備した生産施設において、農家の自家生産方式(委託)で行なわれてきた。
 しかしながら、2002年(平成14年)に、プリクトランなどの無登録農薬が一部の業者により輸入販売され、多数の農家で使用されていたことが明らかになり、このような事態に対処するため、農薬取締法が改正されることになった。これに伴い、病害虫防除用の資材はすべて農薬として取り扱われることになり、これまでは認められていたハマキ天敵の自家生産ができなくなったことから、その対応が求められることになった。
 このような中で、本2003年3月20日に顆粒病ウイルスが「ハマキ天敵」として農薬登録され、アリスタライフサイエンス株式会社から発売されることになり、鹿児島県の減農薬・総合防除体系は引き続き推進することが可能になったところである。
 ハマキ天敵の生産はこれまで農家の自家生産方式であったことから、その使用は鹿児島県などに限られていたが、今回の農薬登録により全国どこでも使用できるようになったことから、今後利用が増えていくものと期待される。
 そこで、鹿児島県におけるハマキ天敵の使用法とその効果について紹介する。

2.ハマキ天敵の使用方法

 ハマキ天敵による防除にあたって重要なことは、ハマキムシに感染しやすい時期に散布することと、感染した幼虫が茶葉上で死亡し次世代への感染源となるようにすることである。また、防除はできるだけ広域で一斉に行なうことが望ましい。

(1)散布適期の判定

 顆粒病ウイルスの感染は2齢までの若齢幼虫でしか起こらないことから、散布時期の判定が防除効果を大きく左右する。
 散布適期はフェロモントラップ調査による発蛾最盛日(連続した5日間の捕獲数合計が最多となった期間の中心日)を基準に判定することとし、第1世代については発蛾最盛日+17日後、第2・3世代については発蛾最盛日+10日後を散布適期とする。散布できる期間は7日間で散布適期の前1日~後5日までとする(第1図)。

発蛾最盛日からの経過日数
第1世代防除適期
第2・3世代防除適期

▲第1図 ハマキ天敵の散布適期

(2)散布世代

 チャノコカクモンハマキ、チャハマキともに第1世代は第2・3世代と比較して齢期がそろいやすいのでハマキ天敵の罹病率が高い。また、発生量も少ないので罹病虫が死亡するまでの間の食害も少ない。よって、第一世代幼虫期が散布時期として最も適する。
 ハマキムシの発生量が多いチャ園では、ハマキムシが死亡するまでの間食害され、被害が大きくなるため、ハマキムシに効果のある薬剤を散布し、ウイルスは密度が低下した次世代に散布する。また、摘採や準備の遅れ等で適期散布できなかった場合も次世代の散布適期に散布する。
 中切り・深切り予定園では、実施後に新葉が1枚以上展開してから散布する。
 なお、チャ園における翌年のハマキ天敵残存量は少ないことから毎年2回の散布が必要である。

(3)農薬混用の可否

 顆粒病ウイルスは一部の強アルカリ性薬剤を除きほとんど影響を受けないが、ハマキムシに効果のある薬剤との混用や近接散布はハマキムシ幼虫の死亡による効果の持続性が期待できなくなる。したがって、薬剤と混用する場合や近接散布を行う場合には薬剤の選定に十分注意を払う必要がある。
 顆粒病ウイルスと混用もしくは近接散布できる薬剤は第1表のとおりである。

殺菌剤
ボルドー液などアルカリ性の強い殺虫剤を除き、ほとんどの殺菌剤で混用可能
殺虫剤
イミダクロプリド水和剤、ブプロフェジン水和剤、ブプロフェジンフロアブル、チオシクラム水和剤、ジアフェンチウロン水和剤、ピリダベンフロアブル、ジフルベンズロン水和剤、テフルベンズロン乳剤、カルタップ水溶剤、テブフェンピラド乳剤、ニテンピラム水溶剤、ビフェナゼートフロアブル、ミルベメクチン乳剤、DDVP乳剤75

▲第1表 ハマキ天敵と混用・近接散布の可能な薬剤

(4)効果の確認方法

 顆粒病ウイルス散布14日後頃に、チャノコカクモンハマキ、チャハマキの幼虫50頭程度を採集して罹病虫率(体色が黄白色に変化した幼虫の割合)を調査する。目標値は罹病虫率70%以上とする。調査の結果、罹病虫率の低下や幼虫密度の増加がみられた場合、ウイルスの再散布や薬剤散布等を検討する必要がある。

▲乗用型防除機による散布状況

3.ハマキ天敵の防除効果

 鹿児島県でハマキ天敵を利用したハマキムシ類の防除が開始されて約10年が経過し、利用面積は県内チャ園の約6割に及んでいる。
 ハマキ天敵による防除効果は大きなものがあるが、本県では広域防除がなされていることもあり、長期的にみてもハマキムシ類の密度低下傾向がみられる。県茶業試験場内に設置された誘蛾灯の調査データから越冬世代の誘殺数についてみてみると、チャノコカクモンハマキ、チャハマキともに、ハマキ天敵に関する試験を開始した1985年以前に比較して近年は誘殺数がおおむね半分に減少している(第2図、3図)。害虫の発生は気象条件の年次間差など各種の要因で変動するため一概にはいえないが、ハマキ天敵の効果を示すものと考えている。

▲第2図 チャノコカクモンハマキ越冬世代の誘殺数

▲第3図 チャハマキ越冬世代の誘殺数

4.おわりに

 鹿児島県のハマキ天敵を利用した減農薬・総合防除が成功した理由は、本誌第104号に掲載された国見氏の記事に詳しいが、ハマキ天敵の持つ防除効果以上に、チャ生産農家をはじめ関係機関団体が一体となって取り組んできた成果である。
 今後、全国のチャ産地においても、ハマキ天敵の利用が広がるものと期待されるが、取り組みに当たっては防除推進体制の整備が第一であることを念頭におく必要である。

(鹿児島県茶業試験場)

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