はじめに
着色期のカキ果実を加害する害虫は、これまでミカンキイロアザミウマが知られていたが、最近和歌山県では、それに加えてネギアザミウマの加害による果実の品質低下が問題となっている。そこで、ネギアザミウマの発生の特徴を明らかにするとともに防除試験の結果について述べる。
1.形態および生活史
ネギアザミウマの体長は1.1~1.6mm、体色は黄色から褐色まで変異がみられ、一般に夏は淡色系、冬は暗色系が多い。カキを加害した個体は淡黄色であった(写真1)。
▲写真1 ネギアザミウマ成虫
発育期間は、20℃では卵から成虫まで20日(卵期間7日)、25℃では14日に短縮する。雌成虫は約1ヵ月間生存し、1日に数個ずつ、計200個程度を産卵する。本種は世界的に分布するが、わが国に生息するネギアザミウマのほとんどの系統は産雌単為生殖する(アブラムシのように雌のみで増える)。
ネギアザミウマは、従来からタマネギやネギなどの害虫として知られているが、多食性でキャベツ、アスパラガスへの加害の記録がある。しかし、これまでカキへの加害は知られていない。
2.果実被害
ミカンキイロアザミウマとネギアザミウマによる果実被害の様相は非常に似ており、収穫後に判別することは難しい。しかし、ミカンキイロアザミウマでは成虫が着色を始めた果実のみに飛来し、主に成虫が加害するのに対して、ネギアザミウマでは幼虫が主体で(写真2)、着色期以前にも加害する違いが認められた(写真3)。
▲写真2 果実を加害中のネギアザミウマ幼虫
▲写真3 カキ果実の被害
着色期が9月上旬にあたる刀根早生では、本種の活動時期と重なるので被害が多く、平核無と富有は着色時期が遅いためか被害は少ない。
3.果樹園の雑草および粘着トラップにおける発生消長
果樹園下草での発生調査は、1園のみでは除草によって調査が中断するので、カキ園とそれに隣接するカンキツ園でも行なった。ネギアザミウマは、ハコベ、ホトケノザなどの葉で成虫による越冬が認められた。密度は春になるとしだいに上昇し、5月に発生ピークとなるが、8月以降はm調査標本にかからないほど密度が低下する(第1表)。
園地
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雑草
|
成虫密度(頭/採集単位)
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1/14 |
3/6
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5/10 |
6/6 |
7/10 |
8/10 |
8/25 |
9/18 |
10/16 |
カンキツ園
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ハコベ |
0.02 |
0.12
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0.97 |
0.39 |
0.11 |
- |
- |
- |
- |
ホトケノザ |
0.11
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0.37 |
1.18 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
カラスノエンドウ |
-
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- |
2.05 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
エノコログサ |
-
|
- |
- |
- |
0.05 |
- |
- |
0 |
- |
イヌビユ |
-
|
- |
- |
- |
0.13 |
- |
- |
0 |
- |
カキ園
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ハコベ |
0
|
0.02 |
- |
- |
0.03 |
- |
- |
- |
0 |
オオイヌノフグリ |
- |
0.08 |
- |
- |
- |
0 |
0 |
- |
- |
エノキグサ |
- |
- |
- |
- |
0 |
0 |
0 |
- |
- |
アメリカイヌホウズキ |
- |
- |
- |
- |
- |
0 |
0 |
- |
- |
▲第1表 果樹園下草におけるネギアザミウマの発生推移
採集単位:ハコベ、ホトケノザ、カラスノエンドウ、オオイヌノフグリ、エノキグサ、イヌビユ、アメリカイヌホウズキは茎先端5~10cm(先端に花がある場合は花も含む)、エノコログサは穂、-は未調査。
多くのアザミウマが青色に誘引されることを利用して、カキ園内の目通りの高さの枝に青色粘着トラップ(ホリバーR
:10×25cm)を吊り、季節消長を調べた。ネギアザミウマの被害発生園(A、B)では、粘着トラップの調査期間中継続して成虫が誘殺された。誘殺のピークは6月上旬と9月上旬で、7月下旬~8月上旬は誘殺数が低く推移した(第1図)。カキ果実の被害がみられる頃に粘着トラップでも誘殺数が増加することから、本種は7月まで果樹園内の下草(増殖に好適な草種は不明)で低密度ながら生息し、8月にはいるとカキ果実に飛来して急激に増殖すると考えられる。
▲第1図 カキ園に設置された青色粘着とラップにおけるネギアザミウマの誘殺消長
AとBは被害発生園
Cは被害未発生園
4.防除対策
(1)薬剤の防除効果
刀根早生園で薬剤防除試験を実施した。試験園周辺では本種による被害が広がり、有効薬剤による防除に緊急を要したために、散布1日後で防除効果を判定した。
試験1では、オルトラン水和剤、MEP水和剤、カルタップSG水溶剤、アセタミプリド水溶剤の防除効果は高かったが、合成ピレスロイド剤であるトラロメトリンフロアブルとアクリナトリン水和剤の効果は低かった(第2表)。試験2では、プロチオホス水和剤、DMTP水和剤、クロルフェナピルフロアブルなど供試した薬剤の効果はいずれも高かった(第3表)。このように、カキに発生したネギアザミウマは有機リン剤等に対する感受性が高かったが、合成ピレスロイド剤に対して感受性が低下していた。
現在のところ、本種に登録のある薬剤はなく、また刀根早生では加害時期が着色期前後であり、収穫までの日数が短いために、有効薬剤である有機リン剤等の登録条件が満たされず、収穫間近に同時防除で使用できる薬剤が少ないことが問題点として挙げられる。
薬剤名
|
希釈倍数
|
4果実当り幼虫数
|
散布前
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散布1日後
|
オルトラン水和剤 |
1,000倍
|
26
|
0
|
MEP水和剤 |
1,000
|
21
|
0
|
カルタップSG水溶剤 |
1,500
|
28
|
1
|
アセタミプリド水溶剤 |
2,000
|
50
|
3
|
トラロメトリンフロアブル |
2,000
|
27
|
19
|
アクリナトリン水和剤 |
1,000
|
19
|
24
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無散布 |
-
|
43
|
80
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▲第2表 ネギアザミウマに対する薬剤の防除効果(試験1)
薬剤名
|
希釈倍数
|
10果実あたり幼虫数
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散布前
|
散布1日後
|
プロチオホス水和剤 |
1,000倍
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15
|
0
|
DMTP水和剤 |
1,000
|
24
|
0
|
クロルフェナピルフロアブル |
2,000
|
34
|
1
|
無散布 |
-
|
32
|
80
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▲第3表 ネギアザミウマに対する薬剤の防除効果(試験2)
(2)光反射資材による飛来防止
カキでは果実の着色促進のために光反射資材のマルチが利用されているが、これはアザミウマ類の飛来数を減少させ、被害軽減の効果があることが知られている。そこで、刀根早生園で8月20日に光反射資材(マルチミラーFR
)を敷設率70%で設置した。
対照区におけるネギアザミウマの誘殺数は9月1~25日には1日当り20頭以上と多かったが、マルチ区では3頭以下と、誘殺数は対照区の約
1/6に減少した。果実被害の大部分はネギアザミウマによるものであり、マルチ区の被害果率は対照区に比べて 1/4に減少した(第2図)。このように、光反射資材のマルチはネギアザミウマの被害防止に有効であるので、利用を勧めたい。ただし8月上旬から敷設すると果実焼けの恐れがあるので、8月下旬以降に行なう。
▲第2図 光反射資材のマルチによるネギアザミウマの飛来防止効果
赤棒:マルチ区 青棒:対照区
薬剤散布;両区とも9月3日
5.今後の課題
ネギアザミウマは、最近では野菜やハウスミカンでも被害が増加しているが、本種がなぜカキで発生するようになったかなど、詳しい経緯は明らかでない。寄主が異なるネギアザミウマ個体群間の寄主適合性も含めて、カキ栽培地域における本種の発生動態に関する詳細な研究が必要と思われる。
(和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場かき・もも研究所)
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