この1、2年、料理番組には頻繁に登場し、春頃ならスーパー店頭で1個100円が当たり前になったパプリカ。日本の食卓に定着した感がある。ところが、いまだに輸入品が日本マーケットの9割を占める状態で、国産はごくわずか。わが国での産地づくりに必要な情報をここで紹介したい。
筆者は、大分県臼杵市でパプリカ農園(2,000㎡)を経営している(写真1)が、その傍らで、オランダ・エンザ社(世界のパプリカ種子需要の70%のシェアを誇る種子メーカー)の技術コンサルタントの委嘱を受けているため、研究、流通、栽培現場の各部門の方々と、常日頃から日本でのパプリカ生産を協議しているものである。
▲写真1 大分産パプリカ
1. 輸入の現状
年間のパプリカ総輸入量は、2001年に21,600t。これとは別に国産品は2,000~3,000tで、輸入品の1割前後である。主に、熊本、高知、宮崎、長野などで産地化が取り組まれている。
わが国のパプリカ消費量は、まだまだ増える勢いであるが(第1表)、国内産地の形成が遅いため、今後のマーケット拡大への対応は、大半が輸入品によって行なわれる情勢である。
本来のパプリカ消費の季節推移は、サラダ需要が高まる夏のピーク+クリスマス需要のグラフになるのだが(第2表)、この3、4年の間に韓国の促成栽培が急拡大したため、同国の出荷開始の11、12月と、収穫終盤の5、6月が極端に増えたグラフになった(第3表)。また、オランダが空輸で、A品ばかりを送ってくるのに対し、韓国品は輸出先の9割以上が日本であり、すべての等級・階級を日本に送ってくる。このため、本来の需要の季節推移とのミスマッチもあり、オランダ品との価格差が著しい(第1表)。
▼第1表 過去4年間の輸入量と価格(単位:トン)
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総輸入量
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オランダ
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韓国
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ニュージーランド
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サウジアラビア
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オマーン
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1998年
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8,855
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5,587
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1,310
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1,397
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561
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-
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1999年
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11,131
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5,497
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3,502
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1,683
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449
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-
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2000年
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16,222
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7,035
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6,726
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3,082
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164
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-
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2001年
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21,606
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5,791
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12,585
|
3,082
|
-
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148
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2001年輸入価格
(平均 ㎏単価)
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379円
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451円
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327円
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456円
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-
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423円
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(資料提供:豊田通商)
▼第2表 1999年月別輸入量
(資料提供:豊田通商)
▼第3表 2001年月別輸入量
(資料提供:豊田通商)
2.国産品の売り先
この輸入先行の状況で、国内産地はどうすべきか。もっとも大事なことは、国産品を好む売り先を的確にみつけて供給すること。生協などの食べ物の安全性を重視するマーケット、こだわりのレストランや農産物直売所のように、規格品よりも鮮度を重視するマーケットなど、輸入品が拡大してくれたマーケットの一部に、必ず国産品を求める需要がある。さらに、価格差が小さければ、輸入品の占めているマーケットも取れる。
流通において、価格を最も大きく左右する要素は、品質はいうまでもなく、果実サイズが重要だ(写真2)。季節ごとに傾向は変わるが、たとえば本年2月の大田市場での大分県産を見ると、全体的に韓国品に引っ張られた安値ではあるものの、Sサイズが最も高く、Lが安い(第4表)。生産量がまだ少ない冬の季節には、スーパーで1玉100円売りができるサイズに人気があるためだ。5~7月には例年韓国品Sサイズが安値で大量に輸入され、それがスーパーで1玉100円で売られるため、全体の相場はさらに下がる。そうなると、M、Lサイズが比較的高い状況になる。Lサイズはスーパーでの単価を安くできないので、スーパー向けには不利だが、レストランなどの業務用には適している。変形果、傷果などのB品は、A品よりも安いため、業務用として人気があり、消費者向けにも農産物直売所などでは十分売れる。
▼写真2 サイズ比較(左からS・M・L)
▼第4表 大田市場の大分産パプリカ価格
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Sサイズ
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Mサイズ
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Lサイズ
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入数/5㎏箱
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38玉入り
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30玉入り
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24玉入り
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2000年6月
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1,200~1,500円
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1,500~1,800円
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1,200~2,000円
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2001年2月
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2,280~2,660円
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1,800~2,100円
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1,500~1,680円
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3. 品質低下原因
オランダや韓国のガラス温室は理想的な環境制御ができるため、国産品がこの輸入品の品質に近づくのはかなりしんどい。
B品となる要素とその原因は(写真3)
▼写真3 パプリカB品の例
① ゆがみ、扁平:温度や日射量不足、生殖成長と栄養成長のアンバランス、過度の着果負担など
② 先尖り:低夜温
③ 裂果:朝の結露の反復
④ 虫害:スリップスによる果皮やへたの傷、オオタバコガによる穿孔など
①、②の対策は、促成栽培なら、暖房機による最低夜温を実測値で赤色品種18℃前後、黄色品種17℃前後を確保することが必要。施設内に寒い場所を作らないために、温風ダクトの配置の工夫や対流ファンによって施設内温度の均一化をしたい。
また、着果負担が常に一定になるように、適切な時期の収穫、定期的な整枝・誘引、奇形果の早めの摘果などが必要である。
③の対策は、環境制御の面では早朝加温や早い時間からの換気開始が有効だが、後述するように品種選びで対応するのが最も早道。
④の対策は、促成栽培ならすべての窓を1㎜目合の防虫ネットで塞ぐことで大幅に害虫侵入が防げる。スリップスには天敵ククメリスを、初めて着果させる花(3、4節目)が開花したときに、1株当り50頭放飼しておく。これで1シーズンを通じてスリップスの密度抑制ができる。
4.品種選び
たとえば、赤色の代表品種は以前はスピリットであり、2、3年前までは世界的なシェアの70%前後を占めていた。ガラス温室などの環境制御が良好な施設では、赤色のスピリットは着果しやすく、果実品質良好で好まれる。だが、日本や韓国のビニールハウスでは、施設内の温湿度の変化が激しいので、スピリットでさえも、果実表面が朝方結露して裂果を生じやすい。
そこで、昨年から日本マーケットを狙う韓国、ニュージーランド、そして日本国内の産地は、赤色は一気に新品種スペシャルに置き換わった。果実サイズが日本マーケットにふさわしいMサイズに揃いやすいだけでなく、肉厚で果実品質が卓越なためである。簡素な施設で栽培しても裂果がごく少ない(写真4)。
いずれにしても、栽培の大前提として、果形が揃わない低品質の品種を使うと、生産者の収入減につながる。どんなに環境改善をしてもB品が多く、果実サイズがばらばらになるからだ。
黄色品種は、世界的にフィエスタが80%以上のシェアを占めている。果実品質の良さと、他品種に比べて1割近く多収になる性質のためである(写真5)。
▼写真4 赤色品種「スペシャル」(3、4節目から着果)
▼写真5 フィエスタ生育状況
5.作型の選定
作型の選定は、その土地の気候をもとに選ぶのが、従来の産地化の手法である。だが、輸入先行でわが国のマーケットが形成されたパプリカの場合は、マーケットのどの部分を取るかの方針に基づいて、作型と経営規模を決めねばならない。
韓国品が輸入される期間は相場が安いため、基本的にはマーケットでの競合を避けたい。だが、前述したように国産品を求める売り先を持っていれば、韓国と同じ作型でも、その注文量に応じて栽培面積を決めればよいことになる。
7~10月はオランダ産がマーケットの主流となるが、オランダ産は空輸でA品のみを輸入するため、価格は高めで維持されている。この期間には、業務用を中心としたB品を求めるマーケットが、国産品の有望な行き先となる。
促成栽培については、熊本や高知、宮崎で、数年間取り組まれてきたため、安定生産技術が確立しつつある。
夏秋栽培は、促成に比べると、困難な要素が多い。高夜温下での着果の難しさ、害虫の猛威、台風のリスクなどがある。そのため、わが国での夏秋の産地化はいずれも小規模。韓国でも適した土地や施設がなく、産地化に苦労している。夏のA品の供給では、高緯度でハイテク施設のオランダが独壇場となる所以である(第2表、3表)。
夏秋栽培に必要な要素は、夜涼しいこと(ある程度の標高のある土地)、遮光技術、台風に耐える施設もしくは台風の少ない土地選び、薬剤も十分に使った防除、などである。
6.収量対策
▼第5表 各国の栽培形態と収量
第5表のように、オランダの収量が際立っている理由は、日射量が十分な夏越しの作型、すべて養液栽培、軒高4m以上のガラス温室にまっすぐ吊り上げる誘引方法、などを見事に組み合わせ、長い収穫期間を可能にした成果だ。
韓国のガラス温室は、日射の面で不利な冬越しのため、収量はオランダにやや劣る。韓国のビニールハウスでは、反収15~16tに到達しているが、この理由は、培地がロックウール(RW)で、2月以降は糸つりを結び直して途中から斜め誘引にして収穫期間の延長を図るためである。
筆者の温室でも、今作から韓国式誘引法を導入したが、栽培期間途中で成長点がワイヤーに届くことを恐れなくてもすむため、栽培期間を通じて十分量の灌水や加温ができ、素直に育てることができる(写真6)。
▼写真6 韓国式斜め誘引
従来のピーマンのあやつり糸方式では、定植後の糸つり設置に膨大な時間がかかることや、韓国式ほどには途中からの斜め誘引ができない、などの難点がある。韓国式の誘引法は、あやつり糸よりも設置がラクで、わが国の軒高が低い施設にぜひ勧めたい技術である。
主枝密度と収量は直結する。パプリカが主枝のみに着果させる作物であるため、いかに面積当りの主枝密度を高めるかが収量を左右するのだ。果実が重いため、側枝での着果は枝が折れてしまう。
主枝密度はその土地の日射量に応じて設計するので、高緯度のオランダでは、2本仕立てで、主枝6.5本/㎡前後がせいぜいである。わが国の日射量なら主枝8本/㎡は可能。ただしその際に、側枝の処理は、各節に2葉ずつを残す程度にして、過繁茂にならないよう注意する(写真7)。
▼写真7 摘葉のしかた
主枝密度の設計例
3本仕立て×2,700株/10a
→ 主枝8.1本/㎡
2本仕立て×4,000株/10a
→ 主枝8.0本/㎡
韓国の主枝密度が10~11本/㎡と高いののは、昨年まで輸出業者が日本マーケット向けにはSサイズ生産を奨励していたため、密植による小玉化を狙ったものだ。ところがこれほどの密植では、春になるとS~2Sサイズが大量にでき、春に比較的高値のM、Lサイズができない。今作から韓国はMサイズ奨励に変わり、主枝密度を下げるようになった。
7.着果技術と収穫
定植後、初めての分枝から数えて1、2節目の花は摘果し、3節目または4節目の花を初めて着果させる(写真4)。これは、パプリカのような大果を肥大させるには、十分に樹を作っておかないと芯止まりするからだ。それ以降の花は、下の節の着果負担が大きいと自然落花し、下の節が収穫されると、上の節の花が自然に着果することを繰り返す。
収穫は、店頭に並ぶまでの所要日数を考慮して、90~95%着色したものを採るようにする。冬場なら週2回、夏場は週3回の収穫サイクルで、これができる。100%着色したものの収穫は、店持ちが悪いし、出荷物が低品質となりがちである。
収穫は、鋏よりも、よく研いだ専用のナイフを使うこと。ピーマンと違って、パプリカは長いへたをつけたまま店頭に並ぶが、これが長い店持ちの秘訣。鋏での収穫は、へたの切り口が汚くなり、店持ちを短くする(写真8)。
▼写真8 収穫方法(果柄の半分までナイフを入れて、果実を揺さぶってもぎとる)
8.むすび
ほとんどの国産農産物は、生産コストでは輸入品に劣るものの、消費者からの熱い支持のおかげで成り立っている。国産品であることを活かした売り方をすれば、パプリカの国内生産は十分価値がある。輸入品とはマーケットを住み分け、消費者に何よりも新鮮な、美味しいパプリカを供給するのだ。
そのためには、わが国に適した育て方を更に追求してゆかねばならない。
(オランダ・ENZA社技術コンサルタント)
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