農業県宮崎では国際化に対応できる「みやざきブランド」の確立を図るため各種施策が展開されており、環境保全型農業の推進も重点施策として積極的な取り組みが開始されている。
新しいブランド産品開発に向けた取り組みの中で、環境に配慮し有利販売のできる減農薬栽培への関心が高まっており、生物農薬についても、総合農試や防除所の現地試験、県植防展示圃、その他の推進事業を活用して、普及・定着に向けた対策が展開されている。
ここでは、最近、利用の増え始めたククメリスについて述べてみたい。
ククメリスは難防除害虫であるアザミウマ類の天敵農薬であるが、対象害虫のアザミウマ類がいなくてもハダニの卵や花粉を食べて生息し、発生してくるアザミウマ類を待ち伏せすることができる天敵である。
ククメリスは500mlのボトルに50,000頭以上のククメリスカブリダニが餌のケナガコナダニおよびフスマと共に封入されており、ボトルの蓋に1振り約100頭のククメリスカブリダニが放出される孔が開けてある。
1.JAはまゆう串間支店の取り組み
JAはまゆう串間支店の促成ピーマン部会(8.6ha、31名)は栽培技術も優れ、反収・品質・単価等、県内でトップクラスである。大手スーパーとの契約で防除体系は減農薬となっている。このため、すべての栽培ハウスに害虫侵入防止用の防虫網が完備している。
この産地では、1999 年にアザミウマ類防除対策としてククメリスの展示試験(県植防、その他)が行なわれ、良好な結果が得られた。そこで翌2000年には同部会全員で取り組むことになり、県総合農試等による講習会などが行なわれ技術の習得が図られた。
ククメリスは10月の定植直後から1週間間隔で原則3回の葉上放飼(1振り100頭/株)が行なわれた。しかし、一部の農家では放飼前の農薬散布その他の事情でククメリスの放飼開始が11月になった。
放飼効果については概ね満足な結果が得られたが、11月に放飼したハウスで効果が劣ったことから早期放飼が必須と判断された。
2001年からは隣接する同JA日南支店の同部会(22ha、58名)においても全員が導入をすることになり、定植直後からククメリスの導入が行なわれている。
2.利用方法
(1)アザミウマ類の防除対策として育苗時に徹底防除し、定植時にハウス内にアザミウマ類を持ち込まないことや、定植時の粒剤施用などが一般的に行なわれているが、ククメリスを利用する場合は定植後早めの放飼がこれまでの結果から防除効果が高いようである。
現地の促成ピーマンでは通常、定植時から1週間間隔で2~4回、放飼(1振り100頭/株)している。
(2)定植間もない時期の放飼は作物も小さく、餌、定着場所などの条件も悪く、本種が湿度を好むこと、暗いところを好むことから株元放飼がよい(灌水注意)。
(3)ククメリスの増殖を図るために、株元にフスマを施用してこれでコナダニを飼育し、ククメリスの増殖場所にして長期間にわたってアザミウマ類を効果的に防除しているケースも見られる。しかし、ナスで株元に施用したフスマが、増殖したコナダニで移動して株につき腐敗してナスが枯死した事例や、少量のフスマを株元のマルチ上に施用した結果、フスマが乾燥してククメリスが増殖できなかったケースなどもあったので注意したい。
ロックウール栽培の観光バラ園で、バラの株間に弁当箱大のプラスチック容器を点在させ、これに同様な方法でククメリスを増殖させてアザミウマ類を防除している事例もある。ここではアザミウマ類だけでなくハダニの発生も少なくなっていた。このようにククメリスは簡単に飼育、増殖できるので上手に活用したい。
(4)作物が大きくなってからのククメリスの放飼は葉上放飼が一般的であるが、ククメリスの分散移動の問題がある。
6月のキュウリでアザミウマ類やハダニ類が全く存在しない場合、ククメリス約100頭の放飼2週間後の調査では、放飼葉を中心に上下に分散していたが、株全体に分散することはなく、それぞれ上下2~3葉にしか分散してなかった。
このことから、キュウリで待ち伏せで連続放飼する場合の目安は、5葉程度の間隔での放飼がよいとしている(宮崎総農試研究報告No.34)。
(5)ナスではククメリスを葉上放飼と葉柄に吊した小箱に放飼した場合の、その後の定着は後者の方が優れているようである。
また、この小箱にフスマを増量してククメリス増殖を図るアイデアもある。
(6)栽培施設の被覆資材に近紫外線カットフィルムを用いたピーマンでは、ククメリスを組み合わせることでアザミウマ類に対する高い防除効果が期待できる(宮総農試だよりNo.137)。
このことは現地の近紫外線カットフィルム利用農家でも認められており、他の病害虫防除対策も含めてピーマンでのこのフィルムの採用が今後進むものと思われる。
(7)他の天敵との併用
アザミウマ類に対してタイリクの登録がピーマン、キュウリに拡大された。タイリクは土着天敵のタイリクヒメハナカメムシで、250mlのポリボトルに成虫主体に250頭がバーミキュライトと共に入っている。タイリクヒメハナカメムシは成虫、幼虫共にアザミウマを捕食し、成虫は飛翔活性が高く、本種の定着したハウスでは株間を飛翔しているのが観察される。
促成ピーマンの施設栽培で被覆資材に近紫外線除去フイルムを用い、ククメリスカブリダニ(100頭/株)を定植直後から1週間間隔で3回放飼し、定植1ヵ月後にタイリクヒメハナカメムシ(1頭/株)を放飼した結果、定植後5ヵ月間の防除効果は薬剤の5回散布に優る結果であった(宮崎総農試だよりNo.138、宮崎総農試試験研究成果選No.3)。
また、近紫外線除去フィルム被覆ハウスを用いた現地での同様の組み合わせによる試験では5月の収穫終了までアザミウマ類を低密度に維持できており、この防除方法は前項と同様にアザミウマ類の優れた防除手段として今後の普及が期待される。
▲ククメリスの放飼
▲葉裏の窪みに潜むククメリス
▲アザミウマを捕食中のククメリス
▲ハダニ卵を捕食中のククメリス
▲フスマの株元施用でククメリスの増殖
▲ククメリスの吊り下げ小箱への放飼
▲アザミウマを捕食中のタイリクヒメハナカメムシ老齢幼虫
(宮崎県)
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